MacBook1台。スタッフなし。オフィスなし。それで月47件のクライアントを獲得し、月収約190万円(約18,800ドル)を稼いでいる人物がいる。使ったのは7つのClaudeエージェントを組み合わせたシステムで、API費用は月約7万円(480ドル)。この話が示しているのは「AIで副業ができる」という話ではなく、ビジネスの構造そのものが変わりつつあるということです。この記事では、その仕組みの中身と、会社員として何を読み取れるかを整理します。
何をやっているのか、具体的に見る

この人物が構築したシステムは、大きく3つの工程を自動で回しています。まず毎朝、Googleマップを3都市分スキャンして「ウェブサイトがない、もしくは2014年以前に作られたサイトしか持っていない小規模事業者」を見つけます。次に、その事業者向けのランディングページのモックアップを自動生成し、さらに10秒ほどの動画でそのデザインをレンダリングします。最後に、その事業者に向けてパーソナライズされたコールドメッセージを送信する。これら一連の流れが、本人が起き上がる前に完了しているわけです。
7つのエージェントはそれぞれ役割を分担しています。「リサーチ担当」「モックアップ生成担当」「動画レンダリング担当」「メッセージ作成担当」といった具合に、1つのAIが全部をこなすのではなく、工程ごとに専門化させているのがポイントです。これはソフトウェア開発で言うマイクロサービス的な発想で、各エージェントが独立して動くため障害が起きても全体が止まりにくい。単に「ChatGPTに全部やらせる」よりも、こうした分業設計のほうが実用的なシステムになります。
従来の制作会社と何が違うのか
従来のウェブ制作会社が同じ受注量をこなそうとすると、8人チームが必要になるとされています。営業担当、ディレクター、デザイナー、コーダー、動画制作者、それぞれの管理コスト。1件400ドルの案件を月47件こなすには、人件費だけで採算が取れない規模感です。ところがこのシステムでは、変動費はほぼAPIコストだけ。月480ドルで18,800ドルを稼ぐ構造は、粗利率にして97%を超えます。
これは「AIが仕事を奪う」という話ではありません。むしろ逆で、「人間が設計したシステムがAIを動かしている」という構図です。このシステムを作った人物は、AIに仕事をさせているのではなく、AIを使って自分の判断を自動化するアーキテクチャを設計しています。どの顧客を狙うか、どんなメッセージが刺さるか、そこに人間の意思決定が入っていて、その実行だけをAIに任せている。この違いは重要です。
会社員にとって何が参考になるか
たとえば、地方の中小企業向けに営業をしている40代の法人営業マンがいるとします。毎週、既存顧客への提案資料を作り、新規顧客のリストアップをして、メール文面を考えて送る。この一連の作業のうち、「リストアップ」と「メール文面の個別化」はすでにAIで自動化できる領域に入っています。全部を一気に自動化しなくても、週3時間かかっていた新規アプローチのメール作成を30分に縮めるだけで、その時間を別の商談に使えます。
あるいは、社内で定期レポートを作っている経理部門のケースを考えてみると、毎月同じ形式で数字を集めて整形してメールで配布する作業は、エージェント的な発想で組み替えられる余地があります。「データを取得するエージェント」「整形するエージェント」「配信するエージェント」という3段階に分解できれば、月次作業が数分に短縮できる可能性があります。プロンプトエンジニアリングの基礎を押さえておくと、こうした設計を考えるときの引き出しが増えます。
今回の事例が副業的な文脈で語られがちですが、会社員として同じ発想を社内業務に持ち込む価値のほうが、実は大きいかもしれません。
「7つのエージェント」という設計思想
1つのAIに全部やらせると、何かがうまくいかないとき原因の特定が難しくなります。7つに分けているのは、デバッグのしやすさと、各工程の品質管理をしやすくするためです。これはプログラミングの話というより、業務フローの設計の話です。
以下に、このシステムの工程を整理します。
| 工程 | 担当エージェントの役割 | 人間が設計する部分 |
|---|---|---|
| リサーチ | Googleマップのスキャン・対象選定 | どの条件で絞るか |
| 分析 | 既存サイトの評価 | 「古い」の基準 |
| 制作 | モックアップ生成 | デザインの方向性 |
| 動画化 | 10秒動画のレンダリング | 見せ方の構成 |
| 文章生成 | コールドメッセージ作成 | トーン・訴求軸 |
| 送信 | メッセージ配信 | 送信タイミング |
| 管理 | 全体の調整・ログ記録 | KPIの定義 |
各工程で「人間が設計する部分」があることに注目してください。AIが自律的に判断しているのではなく、人間の判断をあらかじめ組み込んだ上でAIが実行しています。この設計の巧みさが、このシステムの本質です。
再現性と現実的なハードルについて
「自分にもできるか」という観点で言うと、このシステムをゼロから同じように作るにはプログラミングの知識が必要です。エージェント同士を連携させるには、APIの扱い方やワークフロー設計のスキルが求められます。ただ、全部を一人で作れなくても、「部分的に取り入れる」ことは今すぐできます。
たとえば、Googleマップのスキャンと顧客リスト化だけを自動化するツールはすでに存在しています。モックアップの自動生成もFigmaやWebflowと組み合わせれば近いことができます。全自動の7エージェントシステムを作ることが目標ではなく、「自分の業務のどこを自動化できるか」を考えるための発想の枠組みとして使うのが現実的です。AIを使った副業の始め方でも触れているように、最初から完成形を目指すより、1工程ずつ自動化を試みるほうが続きます。
また、このシステムが月47件を獲得できているのは、ターゲットの設定が明確だからです。「ウェブサイトがない小規模事業者」という絞り込みがあるからこそ、パーソナライズされたメッセージが刺さる。ターゲットが曖昧なまま自動化しても、成果は出ません。自動化の前に「誰に、何を、なぜ」を人間が決める必要があります。
まとめ
この事例が示しているのは、「AIを使えば誰でも月収190万円になれる」という話ではありません。「人間が設計した意思決定をAIに実行させる」という構造が、従来のビジネスモデルの前提を変えつつあるということです。8人チームが必要だった仕事量を1人でこなせるなら、それは競争のルールが変わっているサインです。会社員として、自分の業務の中に「同じ判断を繰り返している工程」がないかを一度確認してみると、自動化できる余地が見えてくるかもしれません。

