AIエージェントを「なんとなく動かしている」状態から抜け出したいなら、まず設定フォルダを開いてみることが近道です。HermesというオープンソースのAIエージェントには、~/.hermesというフォルダが存在し、ここに記憶・性格・できることのすべてが詰まっています。この記事では、そのフォルダ構造を分解しながら、会社員が実務でAIをカスタマイズする際に何が変わるのかを整理します。
AIエージェントをカスタマイズできる人と、できない人の差

同じツールを使っていても、結果に大きな差が出る場面があります。Hermesのようなエージェント型AIは、その典型です。デフォルトのまま動かしている人にとっては「指示した通りに動かない」「毎回同じ説明を繰り返す羽目になる」という体験が続きます。一方、設定ファイルを理解して手を入れている人は、エージェントが自分の業務ルールを覚え、よく使うツールにアクセスし、無駄なやりとりなしに仕事が進む状態を作れます。
この差の根っこは、技術力よりも「どこに何が書いてあるか」を知っているかどうかです。プログラマーでなくても、設定ファイルの構造を一度把握すれば、自分専用のエージェントに育てていくことができます。
~/.hermesフォルダの全体像
~/.hermesはホームディレクトリ(Macであれば/Users/あなたの名前/)に自動生成されるフォルダです。Hermesをインストールして初回起動すると出現し、以後のすべての動作はこのフォルダの中身を読み込んで動きます。構成ファイルを変えればエージェントの振る舞いが変わり、メモリファイルを更新すれば記憶が更新される。そういう仕組みです。
主要なファイルをまとめると、以下のような構造になっています。
| ファイル名 | 役割 | 触る頻度 |
|---|---|---|
config.yaml |
モデル選択・ツール設定・MCP連携 | 初期設定時・機能追加時 |
env |
APIキー・各種トークン | サービス追加時 |
auth.json |
OAuthの認証情報 | 認証連携時 |
memory/ |
エージェントの記憶(会話・ルール等) | 随時 |
tools/ |
カスタムツール定義 | 機能拡張時 |
これら5種類のファイル群が「エージェントが何を知っていて、何ができるか」を決定します。
各ファイルの役割と、触ることで何が変わるか
config.yaml:エージェントの頭脳設定
config.yamlは、Hermesの動作全体を制御するメインの設定ファイルです。YAMLという形式(インデントで構造を表す、人間が読みやすいテキスト)で書かれており、プログラミング経験がなくても比較的読みやすい。ここで指定できる主な項目は、使用するAIモデル(Claude・GPT-4oなど)、ターミナルバックエンドの種類、有効にするツールの一覧、そして外部サービスとの連携設定(MCPサーバーと呼ばれる仕組み)です。
たとえば、週次レポートの作成を担当している30代の企画職の方が「毎週月曜の朝にSlackとNotionを参照してサマリーを作ってほしい」という動作を設定したい場合、SlackとNotionのMCPサーバーをこのファイルで有効化することで実現できます。モデルをGPT-4oからClaudeに切り替えたいときも、この1ファイルを編集するだけです。
env:APIキーの保管場所
envファイルは、各種AIサービスやSaaSのAPIキー(サービスにアクセスするための認証文字列)を保管する場所です。OpenAIのキー、Slackのボットトークン、NotionのAPIキーなどをここに記載します。シークレット情報を専用ファイルに分離することで、config.yamlを誰かと共有するときに機密情報が漏れるリスクを防ぐ設計になっています。
GitHubに設定ファイルをアップするときなど、.gitignoreにenvファイルを追加しておくことは基本的なセキュリティ対策です。実務でチームにHermesを展開する際は、この分離設計を理解しておくことが重要です。
auth.json:OAuth連携の管理
GoogleやGitHubのような「ログインして連携」タイプのサービスと接続する際の認証情報がauth.jsonに保存されます。一度認証が完了すればこのファイルに情報が書き込まれ、次回以降は再ログイン不要になります。経理担当者がGoogleスプレッドシートにHermesからアクセスして集計作業を自動化したい、という場面では、このauth.jsonの存在が裏側で処理を支えています。
memory/:エージェントが「覚えている」ことの実体
ここが、多くの人が存在を知らない重要ファイルです。Hermesが過去の会話から学んだ情報、ユーザーが明示的に「覚えておいて」と伝えた指示、業務ルールのメモなどがこのフォルダに格納されています。
プロンプトの書き方ガイドでも触れているように、AIに毎回同じ文脈を説明し直すのは生産性の大きなロスです。memoryフォルダを活用すれば「うちの会社では〇〇という表現を使う」「このプロジェクトのステークホルダーは〇〇部長」といった情報を一度記録するだけで済みます。ファイルをテキストエディタで開いて手動で追記することも可能なので、エージェントの「知識の棚卸し」として定期的に見直す習慣がつくと、使いこなしのレベルが一段上がります。
実務でカスタマイズした場合の変化
設定ファイルの理解が実務にどうつながるか、もう少し具体的に考えてみます。
営業マネージャーとして複数の商談を並行管理している場合、Hermesのmemoryフォルダに各顧客の担当者名・商談状況・次のアクションを記録しておくと、「A社の件どうなってる?」と聞くだけで現状サマリーが返ってきます。config.yamlでCRMツールとのMCP連携を有効化すれば、実際のデータを引き出してくることも可能です。これはHermesを「チャットAI」ではなく「自分専用のアシスタント」として使う状態です。
一方、設定を変えずにデフォルトのまま使い続ける場合、エージェントは毎回「白紙の状態」からスタートします。どれだけ良い質問をしても、文脈のない返答が続くだけです。ChatGPTの使い方ガイドでも整理しているように、AIの出力品質は「入力の質」と「文脈の豊かさ」で大きく変わります。Hermesの場合、その文脈を永続化するのが~/.hermesフォルダの役割です。
ブラックボックスから抜け出すための最初の一歩
Hermesを使い始めたばかりの段階で~/.hermesフォルダを開いても、最初は何が書いてあるか分からないかもしれません。ただ、ファイルの種類と役割さえ頭に入っていれば、何かうまくいかないときに「どこを直せばいいか」の見当がつきます。モデルを変えたいならconfig.yaml、連携サービスを追加したいならenvとconfig.yaml、エージェントの記憶をリセットしたいならmemory/フォルダ、という判断軸が持てるからです。
AIツールを「なんとなく動かすもの」から「設計して育てるもの」に変えていくプロセスは、エンジニアリングの話というより、自分の仕事の仕方を言語化する作業に近いです。エージェントに何を覚えさせるか、どのツールと連携させるかを考える行為自体が、自分の業務フローを見直す機会にもなります。
AIを副業に活かすための実践ガイドでも触れているように、AIを使いこなす人と使われる側に回る人の差は、ツールの理解度よりも「自分でいじってみる」という行動の有無に起因していることが多いです。
まとめ
~/.hermesフォルダは、AIエージェントの「設計図」です。config.yamlで頭脳を設定し、envで外部サービスとの接続を管理し、memoryでエージェントの記憶を育てる。この3層構造を理解するだけで、Hermesとの付き合い方は大きく変わります。
ツールを深く理解するほど使いこなせる、という当たり前のことが、AIエージェントの時代にもそのまま当てはまります。あなたの業務の中で「毎回説明し直している情報」はどこにありますか。それをmemoryフォルダに書き込むことが、今日できる最初の一手かもしれません。

