OpenAIが開発者向けにひっそりと公開した機能が、実は30〜40代の会社員にとっても無関係じゃない話かもしれません。「Record & Replay」と名付けられたこの機能、ざっくり言うと「繰り返し業務を一度AIに見せるだけで、次から自動でやらせられる」というものです。この記事では、Record & Replayの仕組みと、それが私たちの日常業務にどう関わってくるかを整理します。
Record & Replayとは何か

OpenAIのCodex(コーデックス)は、もともとコードを書くためのAIとして知られていましたが、最近は「繰り返し発生する作業をスキルとして登録・再利用する」という方向に機能が広がっています。Record & Replayはその一つで、ユーザーが実際に操作している様子をCodexに「録画」させ、その内容をAIが分析して再現可能なスキルとして保存する機能です。
具体的には、経費申請フォームの入力手順や、社内システムでの休暇申請の流れといった「毎月・毎週発生するけど特に難しくない作業」が対象になります。録画の開始と終了はユーザー自身が操作するため、どこからどこまでを「スキル」として切り出すかをコントロールできます。録画が終わると、Codexはその操作を「見える化・編集可能な状態」で保存します。次回以降は「あのフォーム提出、またやっておいて」と頼むだけで、記録された手順を再実行してくれる仕組みです。
エンジニアが使うイメージが強いCodexですが、この機能に限って言えば、プログラミングの知識はほぼ不要です。画面操作を「見せる」だけでいいため、ノーコードで自動化の恩恵を受けられる設計になっています。
「マクロ」や「RPA」との違いはどこにあるか
ここで気になるのが、ExcelのマクロやRPA(Robotic Process Automation)ツールとの違いです。どちらも「繰り返し作業を自動化する」という目的は同じですが、Record & Replayにはいくつか異なる特徴があります。
従来のRPAツール(UiPathやPower Automateなど)は、操作を記録して再生するという点では似ていますが、「画面のレイアウトが少し変わっただけで動かなくなる」という脆さが課題でした。フォームのボタンの位置が変わったり、項目名が変更されたりすると、設定をゼロから作り直す必要が出てきます。これが、IT部門以外の社員がRPAを自力で維持するのが難しかった理由の一つです。
CodexのRecord & Replayは、操作の「位置情報」だけでなく、文脈や意図をAIが理解した上でスキルを生成します。そのため、多少の画面変更があっても柔軟に対応できる可能性があります。また、生成されたスキルは「確認・編集できる状態」で保存されるため、内容を見て修正したり、どの手順をスキップするか調整したりすることもできます。この「透明性と編集可能性」は、従来の自動化ツールにはなかった特徴です。
以下に、主な自動化アプローチを整理しました。
| アプローチ | 設定の難易度 | 変更への耐性 | 編集のしやすさ |
|---|---|---|---|
| ExcelマクロVBA | 高(コード必要) | 低 | 中 |
| RPA(Power Automate等) | 中 | 低〜中 | 低 |
| Codex Record & Replay | 低(操作するだけ) | 中〜高(AI補完) | 高(自然言語で確認可) |
どのアプローチが合うかは業務内容によります。ただ、「ITに詳しくない人が、日常業務を自分で自動化する」というハードルを下げるという点では、Record & Replayは現時点で一歩先を行っています。
会社員の業務でどう使えるか
少し具体的なシナリオで考えてみましょう。
総務部で働く38歳の山田さんは、毎月末に社員からの経費精算申請を社内システムへ手入力する作業があります。10件程度なら大したことありませんが、月末の繁忙期に30〜40件分の入力が重なると、ほかの業務が後回しになります。Record & Replayを使うなら、山田さんが一件だけ実際に入力する様子をCodexに録画させます。Codexはその操作をスキルとして保存し、次月からは「先月と同じ形式のデータが来たら自動で入力する」という設定に変えられます。山田さん自身がITの知識を持っていなくても、操作を「見せる」だけでいい。
もう一つ、営業チームのリーダーをしている46歳の田中さんのケースも考えられます。毎週月曜日に週次の商談進捗をCRMシステムに登録し、上長向けのレポートをフォーマット通りにまとめるのが習慣になっています。作業自体は30分ほどですが、毎週やるとなると年間で25時間以上消費している計算です。この一連の操作をCodexに記録させておけば、データを渡すだけで手順を再実行してもらえます。田中さんの30分を別の商談準備や部下への1on1に充てられるかもしれません。
ChatGPTを業務で使い始めたばかりの方は、まずChatGPTの基本的な活用方法を整理したガイドと並行して読むと、全体像が掴みやすくなります。
気になるポイントと現時点での限界
この機能が実用レベルに達するには、まだいくつか確認が必要な点があります。
社内システムへのアクセス権限や情報セキュリティの問題は避けて通れません。経費申請や人事情報は機密性の高いデータを扱うため、Codexがどこまでの情報にアクセスしてよいかを会社のポリシーに照らして判断する必要があります。現時点では、OpenAIが公開している情報だけでは社内システムとの連携方法や、データの取り扱いポリシーの詳細が読み切れない部分もあります。
加えて、Record & Replayで作成したスキルがどの程度の複雑な操作に対応できるのか、条件分岐(「承認が必要な金額の場合は別のフォームを使う」など)をどう扱うのか、といった細かい仕様はまだ公開途中の段階です。実際に業務へ組み込む前に、まず複雑ではない反復作業で試してみて、結果を確認するという慎重なアプローチが現実的でしょう。
プロンプトの書き方や指示の精度についての基礎知識があると、こういったAI機能との付き合い方も変わってきます。
この機能が示しているもの
Record & Replayという機能単体を見ると「便利な自動化ツール」に映りますが、その背景にあるOpenAIの方向性は少し大きな話です。
これまでのAI活用は「プロンプトを上手に書く人が使いこなせる」という構図でしたが、Record & Replayのような機能は「操作を見せる」というより直感的なインターフェースに移行しようとしています。言葉でうまく説明できなくても、「こういうことをやってほしい」と実演することで意図を伝えられる。これはAIツールが、プログラマーや文章が得意な人だけのものではなくなっていくサインとして読めます。
日本の会社員の多くが毎日こなしている「定型業務」は、まさにこの機能が狙うターゲットです。AIスキルを身に着けるという文脈でいえば、最先端のプロンプト技術を学ぶことと同じくらい、「自分の業務のどこが繰り返し作業か」を棚卸しする習慣を持つことが、近い将来に大きな差になってくるかもしれません。
まとめ
OpenAI CodexのRecord & Replayは、繰り返し業務を「一度見せてスキルに変える」という発想で設計された機能です。RPAのような既存の自動化ツールより設定のハードルが低く、AIが文脈を理解した上でスキルを生成・編集できる点は注目に値します。一方で、セキュリティ要件や複雑な条件分岐への対応は、実際に業務に組み込む前に確認が必要です。あなたの業務の中で「毎週・毎月やっているけど、正直なくなってほしい作業」はどこにありますか。

