AIツールの導入を検討しているけれど、補助金が使えるのかどうか分からない——そう感じている担当者は少なくありません。2026年度から「IT導入補助金」が「デジタル化・AI導入補助金」に改称され、制度の名前も申請の仕組みも少し変わりました。この記事では、対象ツールの調べ方から申請の流れ、よくある誤解まで、導入検討中の担当者が判断できるよう整理します。

制度の全体像:ツール導入のための補助金です
まず前提として押さえておきたいのは、この補助金が「ツールを導入する費用を支援する制度」だという点です。研修を受けたい、社員にAIの使い方を学ばせたいという目的では使えません。この点は後ほど詳しく触れますが、制度の性格を最初に把握しておくことで、「申請してみたら対象外だった」という無駄足を防げます。
補助率は原則として費用の2分の1以内です。一定の要件(賃上げ要件など)を満たす場合は3分の2以内まで引き上げられます。補助金額の幅は5万円から450万円と広く、小規模な会計ソフトの導入から、複数部門にわたる大きなシステム整備まで対応しています。従業員20人の食品卸会社が受発注管理ツールを入れる場合でも、従業員80人の製造業がERPと連携した在庫管理システムを導入する場合でも、規模感に合わせて活用できる設計になっています。
対象経費として認められるのは、ソフトウェアの購入費とクラウドサービスの利用料(最大2年分)が基本です。これに加えて、導入設定の費用、マニュアルの作成費、導入時の研修費用は「オプション経費」として認められています。ただし、このオプション経費はあくまでツール導入に付随するものとして認める、という位置づけです。研修だけを切り出して申請することはできません。
対象ツールの調べ方:ベンダーが鍵を握っています
この制度で対象になるツールは、あらかじめ補助金事務局に登録されたものに限られます。しかし、「補助金の公式サイトでツール一覧を調べて、好きなものを選ぶ」という手順ではありません。申請の仕組みを先に理解しておくと、調べ方がスムーズになります。
この補助金の申請は、「登録済みのIT導入支援事業者」と共同で行う仕組みになっています。IT導入支援事業者とは、補助金事務局に登録されたソフトウェアベンダーやITサービス会社のことです。登録されたベンダーが販売・提供しているツールのみが補助の対象になるため、自社でツールを選んで単独で申請するという形ではありません。
具体的な手順としては、まず導入を検討しているツールのベンダーに「IT導入支援事業者として登録されていますか?」と確認することが最初のステップになります。もともと特定のツールを検討していない場合は、公式サイトの「IT導入支援事業者・ITツール検索」機能を使い、業種・業務プロセスなどで絞り込みながらツールを探す方法があります。経理・会計、在庫管理、顧客管理、受発注、勤怠管理といった業務領域ごとに登録ツールを探せます。
検索で見つかったツールが自社の業務に合うかを確認したうえで、そのベンダーに相談すると、補助金申請のサポートもベンダー側が担ってくれます。ベンダーと共同で事業計画書を作成し、申請を進める流れです。担当者が一から補助金の書類を書く必要はなく、ベンダーとやり取りしながら進められる点はこの制度の実務上のメリットです。
AIツールは対象になるのか
制度名に「AI」が加わったことで、ChatGPTなどの生成AIツールが対象になるのか気になっている担当者も多いはずです。結論から言えば、登録済みIT導入支援事業者が提供するAI関連ツールであれば対象になります。ただし、「OpenAIと直接契約してChatGPTのAPIを使う」といった形での申請はできません。あくまで登録ベンダーが販売・提供しているツールが対象です。
実際に対象として登録されているAI関連ツールには、AI搭載の請求書処理ソフト、AIによる文書要約機能を持つ業務管理ツール、チャットボット形式の顧客対応ツールなどがあります。「AIを活用した業務効率化ツール」というカテゴリで複数のベンダーが登録していますので、公式の検索機能で「AI」「自動化」などのキーワードを使って絞り込むと候補が見つかりやすくなります。
一方で、すでに会社で特定のAIサービスを使っており、「このツールで補助金が使えないか」と逆引きで考える場合は、そのサービスのベンダーが支援事業者として登録されているかを直接確認するのが早道です。登録状況はベンダー側も積極的に案内していることが多く、問い合わせれば数日以内に回答が返ってくることがほとんどです。
研修目的では使えない:制度の境界線
「社員にAIの使い方を学ばせたい」という場合、この補助金は対象外になります。前述のとおり、研修費用はツール導入に付随するオプション経費としてのみ認められており、研修単体を目的とした申請はできません。
たとえば、従業員40人の建設会社が「現場スタッフ全員にAI活用研修を受けさせたい」という場合、デジタル化・AI導入補助金には頼れません。この場合に検討できるのは、厚生労働省が運営する人材開発支援助成金です。人材開発支援助成金は、社員のスキルアップを目的とした研修費用を支援する制度で、IT・AIスキルの習得を目的とした研修にも活用できます。
生成AI研修にどの助成金・補助金が使えるかについては、中小企業が今年度使える制度と費用相場をまとめた記事で整理しています。デジタル化・AI導入補助金と人材開発支援助成金を使い分ける判断軸も含めて確認できます。
ツール導入と研修を同時に進めたいケースでは、両制度の組み合わせが現実的な選択肢になります。たとえば「AIを使った経理ソフトを導入する費用はデジタル化・AI導入補助金で賄い、社員向けのAI活用研修は人材開発支援助成金を使う」という形です。ただし、それぞれに申請のタイミングや要件があるため、両方を同一の時期に動かすには余裕のあるスケジュール管理が必要です。
申請前に確認しておく5つのポイント
実際に申請を検討する段階で、担当者がつまずきやすい確認事項をまとめます。ベンダーとの打ち合わせ前にここを整理しておくと、話が早く進みます。
導入したいツールが決まっているか
ツールが決まっている場合は、そのベンダーが登録済み支援事業者かどうかを確認します。決まっていない場合は、公式の検索機能で業種・業務プロセスを絞って候補を探します。「とにかく補助金を使いたい」という動機でツールを選ぶと、導入後に使われなくなるリスクがあります。業務上の課題から出発して、それを解決できるツールを選ぶという順序が重要です。
補助対象経費の範囲を事前に確認する
ソフトウェア購入費とクラウド利用料(最大2年分)が基本対象経費です。導入設定費やマニュアル作成費はオプション経費として申請できますが、ベンダーの見積書がどの経費に区分されているかを確認しておきます。経費の区分があいまいなまま進めると、後で補助対象外の費用が発生するケースがあります。
賃上げ要件への対応可否
補助率が3分の2以内に上がる要件として、賃上げに関する条件が設定されています。具体的な要件は公募要領で確認が必要ですが、この要件を満たすかどうかで補助額に大きな差が出るため、早い段階で社内の人事・労務担当者と確認しておくと安心です。
申請はベンダーと共同で進める
担当者が書類を単独で準備する必要はありませんが、ベンダーとのやり取りには一定のリードタイムがかかります。「来月から使い始めたい」という場合は間に合わないことが多く、補助金を使う前提であれば3〜4カ月前には動き始めるのが現実的です。
公募期間を確認する
補助金には公募期間があり、常に申請を受け付けているわけではありません。公式サイトで現在の公募状況を確認し、応募締め切りから逆算してスケジュールを組む必要があります。
制度を使うかどうかの判断軸
デジタル化・AI導入補助金が自社に合うかどうかは、次の2つの条件で判断できます。
登録済みIT導入支援事業者が販売しているツールを導入しようとしている場合は、この補助金が活用できる可能性があります。5万円から450万円という幅の広さから、小規模な導入でも補助の恩恵を受けられます。とくに、クラウド型の業務ツールを複数年契約で使い始める場合は、2年分の利用料が対象になる点でメリットが大きくなります。
一方で、社員のスキルアップが主な目的の場合や、登録外のツールを使いたい場合は、この制度は適しません。無理に対象ツールに合わせてしまうと、業務課題の解決につながらない導入になるリスクがあります。目的に応じて制度を選ぶ、という視点を忘れないようにしましょう。
まとめ
デジタル化・AI導入補助金は、業務ツールの導入コストを抑える手段として中小企業にとって現実的な選択肢です。ただし「ツール導入が前提」「登録済みベンダーと共同申請」という枠組みをきちんと理解してから動かないと、準備に時間をかけた末に対象外と分かるケースもあります。まず自社が解決したい業務課題を明確にして、それに対応するツールが登録ベンダー経由で手に入るかどうかを確認する——この順序で進めると、制度を有効に活用できます。
※本記事の数値・要件は2026年8月30日時点の一次資料をもとに確認したものです。申請前に最新の公募要領をご確認ください。


