受注・請求・出荷の3つが絡む業務で、「どこで遅延が起きているのか」を正確に把握できている会社は多くありません。担当者の感覚や月次の会議での報告に頼っている場合、実際のボトルネックとズレていることがよくあります。Microsoft 365に含まれるPower Automateに、こうした複数の業務が絡む流れを丸ごと分析できる「オブジェクト中心プロセスマイニング」機能が追加されました。この記事では、この機能が何をするものか、どんな会社が使えるか、何のデータが必要かを整理します。
「どこで詰まっているか」が見えにくい本当の理由

業務の流れを分析しようとするとき、多くの管理部門担当者がまず思い浮かべるのは、Excelで集計する方法です。受注件数、請求件数、出荷件数を月ごとに並べて傾向を見る。しかし、この方法では「数の推移」は見えても「どの工程で何日詰まっているか」は見えません。
この問題の根本は、実際の業務が「1本の流れ」ではなく、複数のモノが絡み合って動いているからです。たとえば、1件の受注に対して複数の出荷が発生することがあります。複数の受注をまとめた1枚の請求書を発行することもある。出荷する荷物の中に、異なる注文の商品が混在していることも珍しくありません。従来のプロセス分析ツールは、こういった「複数のオブジェクトが絡む流れ」を1対1の直線として表現しようとするため、現実とのズレが生じやすい構造になっていました。
オブジェクト中心プロセスマイニングが解決すること
Power AutomateのProcess Mining(プロセスマイニング)は、業務システムのログデータを読み込んで、実際の業務の流れを自動で分析・可視化するツールです。2023年ごろからMicrosoft 365のサブスクリプションに含まれる形で提供されていますが、今回追加されたのが「オブジェクト中心プロセスマイニング(Object-Centric Process Mining)」という分析方式です。
この方式では、「受注(Order)」「請求書(Invoice)」「出荷(Shipment)」「商品(Item)」などを別々のオブジェクトとして記録しつつ、それぞれの関係性を保ったまま分析できます。受注1件に紐づく請求書が何枚あるか、請求書の発行から出荷完了まで平均何日かかっているか、どの工程で例外的に時間がかかっているかを、実際のログデータに基づいて把握できます。担当者の記憶や報告ではなく、システムに残った事実の記録から分析するため、現場の感覚と実態のズレを発見しやすいのが特徴です。
どんなデータがあれば分析できるか
分析を始めるには、業務システムのイベントログが必要です。具体的には、「いつ・誰が・何に対して・どんな操作をしたか」が記録されたデータです。多くの会社がすでに使っているERP(基幹システム)、受注管理システム、会計ソフトのログがこれに該当します。
以下に、受注〜請求〜出荷の流れを分析する場合に必要なデータの例を整理します。
| オブジェクト | 必要なイベントの例 | データが残りやすいシステム |
|---|---|---|
| 受注(Order) | 受注登録、確認、変更、キャンセル | 受注管理システム、ERP |
| 請求書(Invoice) | 請求書作成、送付、入金確認 | 会計ソフト、ERP |
| 出荷(Shipment) | 出荷指示、ピッキング完了、発送、到着確認 | 在庫管理システム、WMS |
| 商品(Item) | 引当、在庫確保、梱包 | 在庫管理システム |
データが複数のシステムに分散している場合でも、CSVやExcelで書き出してPower Automateに読み込む方法が使えます。すべてのフィールドが完全に揃っている必要はなく、まず受注と請求書の2つのオブジェクトだけで試してみることも可能です。
従業員30人規模の物販会社での活用イメージ
従業員30人の物販会社で、受注処理から出荷までを3人の事務担当者が回しているケースを考えてみます。毎月末になると請求書の発行が集中して残業が増え、出荷ミスの件数も上がる。しかし、どの工程で何が詰まっているのかは、担当者それぞれの感覚に委ねられています。
この会社がオブジェクト中心プロセスマイニングを使うとすると、まず受注管理システムから取り出したCSVと、会計ソフトの請求データを組み合わせてPower Automateに読み込みます。分析が終わると、「受注確認から請求書発行まで平均4.2日かかっているが、そのうち8割以上は担当者への確認待ちで止まっている」「複数受注をまとめた請求書の処理に、通常の1.8倍の時間がかかっている」といった具体的な数値が出てきます。感覚では「月末が忙しい」という認識だったものが、「火曜と水曜の請求処理が集中している」という事実に変わると、対策の立て方も変わります。対策を検討するのは担当者自身ですが、何が問題なのかを議論するための共通の事実が生まれます。
使うために必要な環境と費用の目安
Process Mining機能は、Microsoft 365のライセンスとは別にPower Automateのプレミアムライセンスが必要です。2026年時点では、Power Automateの「プレミアム」プランが1ユーザーあたり月額約2,200円(税別)となっています(ライセンス体系は変更される場合があります)。分析を担当する管理部門の担当者1〜2名分のライセンスがあれば、分析自体は始められます。
オブジェクト中心プロセスマイニングの機能は、Microsoft 365ロードマップ(ID: 576870)に記載されており、2026年中に一般公開される予定です。現在はプレビュー版として一部ユーザーが利用できる状態です。自社のMicrosoft 365管理者に確認するか、Power Automateの管理画面でProcess Miningのセクションを開くことで、利用可能かどうかを確認できます。
なお、プロセスマイニングを試す前の段階として、業務フローの整理にChatGPT活用ガイドが参考になる場合もあります。現状の業務の流れを言語化する作業から始めると、どのデータを取り出すべきかが見えやすくなります。
よくある3つのつまずきポイント
管理部門担当者がプロセスマイニングを試みて止まりやすいのは、「データの準備」「どのオブジェクトから分析を始めるか」「結果の読み方」の3点です。
データの準備については、完璧なデータを揃えようとして動き出せないパターンが多いです。まずは受注と請求書の2種類だけで始めるほうが現実的です。システムから書き出したCSVのカラム名や日付フォーマットが合っていない場合は、Power Automateの「データ変換」機能や、ExcelのPower Queryで整形してから読み込む方法が使えます。プロンプトの書き方ガイドで紹介しているようなAIへの質問の組み立て方を使えば、データ整形の手順をChatGPTに聞きながら進めることもできます。
分析を始めるオブジェクトについては、最も「詰まっている感覚がある」工程を中心に選ぶのが近道です。全体を一度に分析しようとすると、結果の解釈が複雑になります。
結果の読み方については、Power AutomateのProcess Mining画面に表示されるフローチャートを見て「情報量が多すぎる」と感じる場合、まずフィルターで処理件数の多い上位3〜5パターンだけに絞ると全体像がつかみやすくなります。
まとめ
オブジェクト中心プロセスマイニングは、受注・請求・出荷のように複数のモノが絡む業務の非効率を、実際のシステムログから発見するための機能です。感覚や経験則ではなく、データに基づいて「どこで・何日・なぜ止まっているか」を明らかにできる点が、Excelでの集計と大きく違います。
一方で、「データが整っていない」「どこから手をつければいいかわからない」という状況は、多くの中小企業で起きることです。業務の流れを整理するところから始めたい場合や、自社の状況を誰かに相談しながら進めたい場合は、AI導入の相談窓口を活用することも選択肢のひとつです。
あなたの会社の業務フローの中で、「いつも詰まる気がするが、なぜかは分からない」という工程はどこにあるでしょうか。


