ChatGPTをはじめとする生成AIに何を入力してよいか、社員に明確な基準を示せていない会社は少なくありません。「とりあえず使っていい」では現場は動けず、「何も入れるな」では導入の意味がなくなります。判断の軸は「特定の人・会社・取引に結びつく情報か否か」です。これを基準にすると、大半のケースで可否を決められます。
なぜ「何を入れるか」が問題になるのか
生成AIサービスには、大きく分けて2種類の運用があります。入力したデータをAI側の学習に使うものと、使わないものです。
ChatGPTを例にとると、無料プラン(ChatGPT Free)はデフォルトで入力内容がOpenAIの学習データとして使われる設定になっています。有料プランのChatGPT TeamやEnterpriseでは、管理者が設定を変更することで学習への使用をオフにできます。ただし設定画面での確認と明示的なオフ操作が必要で、契約しただけでは自動的にオフになりません。
Microsoft 365 CopilotやGoogle Workspace向けのGeminiは、企業向け契約では原則として入力データを学習に使わない設計になっています。ただし利用規約はサービス改訂で変わるため、導入時点での確認を怠らないことが前提です。
学習に使われる・使われないにかかわらず、入力した情報はサービス提供会社のサーバーに送信されます。「社内のパソコンで使っているから外に出ない」という理解は誤りです。
カテゴリ別の入力可否
以下は、情報の種類ごとに「可/要注意/不可」を整理したものです。サービスの設定や契約によって変わる部分もありますが、最低限の基準として使えます。
入力してよい情報(可)
- 業界全般に公開されている知識・法令・規制
- 自社が公開しているWebサイト・パンフレットの文章
- 特定の個人・取引先が特定できない一般的な業務手順
- 既に公開済みのプレスリリースや採用情報
- 架空の設定で作った例文・サンプルデータ
たとえば「製造業の在庫管理マニュアルのひな型を作りたい」という使い方は、特定の人や会社が登場しないため問題になりにくいです。
慎重に扱う情報(要注意)
- 会社名・部署名・担当者名を含む社内文書
- 取引先との契約内容(金額・条件を含まない一般的な文章であれば許容範囲が広がる)
- 採用候補者の応募書類
- 社内の組織図や人員配置
「要注意」に分類した情報は、固有名詞を伏せるか、架空の名称に置き換えることで「可」に近づけられます。「A社との取引で注意すべき点を整理したい」という質問を「機械部品メーカーとの取引で注意すべき点を整理したい」に書き換えると、特定が難しくなります。現場にこの置き換え習慣を浸透させるだけでも、リスクはかなり下がります。
入力してはいけない情報(不可)
- 顧客の氏名・住所・電話番号・メールアドレス
- 社員のマイナンバー、給与、評価情報
- 非公開の財務情報(決算資料、融資条件、原価構造など)
- 取引先との秘密保持契約(NDA)で守秘義務が課された内容
- 製品の未発表情報・特許出願前の技術資料
これらは個人情報保護法の対象になるものや、契約上の守秘義務が生じているものです。漏えいした場合の損害は、AIの利便性で得られるものを上回ります。
従業員30人の製造業を例にすると、経理担当が月末の支払い処理をしながら「この取引先への支払い文章を作りたい」と思ったとします。そこで取引先の社名・振込先口座・取引金額をそのまま貼り付けるのが「不可」のケースです。一方、「○○円を○○日までに振り込む旨の丁寧な案内文を作ってほしい」のように金額・社名を伏せた形で使うのが「要注意→可」に近い使い方です。
自社で使える判断フローの作り方
社員に「この情報、入れていいですか」と毎回確認させるのは現実的ではありません。自分で判断できるフローを1枚のシートにまとめて渡すのが実用的です。
以下の3問で判断できる形にすると、現場での運用が続きやすくなります。
Q1. 特定の個人が識別できる情報が含まれるか?
含まれる → 不可。含まれない → Q2へ。
Q2. 取引先・社外の会社に関する非公開情報が含まれるか?
含まれる → 不可。含まれない → Q3へ。
Q3. 自社の未公開の財務・技術・戦略情報が含まれるか?
含まれる → 不可。含まれない → 入力してよい。
この3問に「ノー」と答えられれば、ほとんどのケースで安全側に収まります。どれかに「イエス」なら、固有名詞を伏せて書き直すか、使用を見送る判断をします。
もう一つ確認すべき設定があります。使っているAIサービスのデータ学習をオフにする操作です。ChatGPTであれば、右上のアカウントメニューから「設定(Settings)」→「データ管理(Data controls)」→「モデルのトレーニングにデータを使用する」をオフにします。有料プランでのみ表示される項目なので、無料プランを使っている場合はプランの見直しも検討してください。
社内ルールとして明文化する際は、「入力可否の3問フロー」「学習設定のオフ操作の手順」「違反した場合の報告先」の3点を最低限盛り込みます。生成AI研修の費用や社内ルール整備の進め方については、こちらの記事でまとめています。
注意点:サービスの規約は変わる
各サービスの利用規約やデータ処理方針は、改訂されることがあります。「昨年確認したから大丈夫」という運用では、いつの間にか条件が変わっているケースがあります。半年に1回程度、使っているサービスの利用規約ページを確認する担当者を決めておくことを勧めます。
また、社外のAIサービスではなく、自社環境内で動かす「ローカル型AI」を選べばデータが外部に出ない構成にできます。ただし導入コストと運用の手間がかかるため、従業員10〜50人規模の会社では外部サービスの設定管理で対応するほうが現実的なことが多いです。
判断に迷う場合
「この情報は入れていいのか判断できない」というケースは必ず出てきます。社内に判断できる担当者がいない場合、IT導入支援を行う中小企業診断士や、AIツール導入の相談を受けているコンサルタントに壁打ちするのも一つの方法です。当メディアでもAI活用のルール整備に関する相談を受け付けていますので、社内基準の作り方で詰まったときはお問い合わせください。


