社内でAIツールが増えてきたとき、「うちでは何がどれだけ使われているのか」を把握できている管理担当者はどれくらいいるでしょうか。
2026年10月、Microsoft Viva Insights(ヴィヴァ インサイツ)のAgent Dashboardが、Microsoft製品以外のAIエージェントのレポートにも対応しました。ChatGPTやClaudeなど外部のAIサービスを使っている場合でも、利用状況を同じ画面でまとめて確認できるようになっています。この記事では、この機能が中小企業の管理実務にとって何を意味するのかを整理します。
「うちでAIを何人が使っているか」を把握できていますか

複数のAIツールを同時に使う会社が増えています。たとえば、Microsoft 365 CopilotとChatGPT Enterpriseを契約しながら、現場では個人のClaude.aiアカウントも使われている——こうした状況は、従業員30〜50人規模の会社でも珍しくありません。
問題は、「社内でAIがどう使われているか」を管理する手段がこれまでほぼなかった点です。国内の中小企業を対象にした複数の調査を合わせると、AIツールの利用実態を「まったく把握できていない」と答えた管理者の割合は6〜7割に達するとみられています。ツールごとに管理画面が異なり、そもそも個人アカウントで使われていれば会社側には見えない。この状態で「AI活用の成果を測ろう」としても、データの土台がそもそも存在しないという状況に陥ります。
Microsoftが今回拡張した機能は、そのギャップを埋めるための一手です。
Viva Insights「Agent Dashboard」とは何か
Viva Insightsは、Microsoft 365の利用データをもとに従業員の働き方や生産性の傾向を可視化するサービスです。会議の多さ、コラボレーションのパターン、集中時間の確保状況などを管理者向けにレポートする機能を持っています。その中に、AIエージェントの利用状況を専用で表示する「Agent Dashboard(エージェント ダッシュボード)」があります。
これまでAgent DashboardはMicrosoftのCopilotに関するデータのみを表示していました。ところが2026年10月のアップデートで、サードパーティ製のAIエージェント——つまりMicrosoft以外の会社が提供するAIツール——のデータも同じ画面で確認できるようになりました。対象はそのAIツール側が連携に対応している必要がありますが、対応済みのサービスについては利用頻度や関わっている部署などを一覧で見られます。
Copilot Analyticsとも呼ばれるこの機能は、Microsoft 365のライセンスの中で利用できます。ただし、Viva Insightsの管理者向け機能を使うには、Microsoft 365 Business PremiumやMicrosoft 365 E3以上のプランが必要です。小規模プランのみを使っている場合はまずプランの確認が必要になります。
ひとつの画面でまとめて見えることの意味
この変化を「ダッシュボードの機能追加」として受け流すのはもったいないかもしれません。管理する側にとって、ツールごとにバラバラに確認していた作業がひとつの画面に集約されることは、業務の手間を減らすだけでなく、判断の質を変えます。
たとえば、従業員40人の製造業で管理部門を担当している方を想定してみます。現場の営業担当はChatGPTで提案書の下書きを作っており、経理担当は別のAIツールで請求書のデータ整理を試みている。しかし管理担当者には、誰がどのツールをどれだけ使っているかが見えていない。AIツールへの月額費用は発生しているのに、どこにどう効いているかを把握できないまま、「なんとなく導入している」状態が続く——これは現状の典型的なパターンです。
Agent Dashboardで複数ツールの利用データが一本化されると、「どの部署が最も活用しているか」「逆にまったく使われていないチームはどこか」「ツールの種類ごとに利用頻度に差はあるか」といった問いに答えやすくなります。経営者や管理者が「うちのAI活用は進んでいるのか」を判断するための材料が、初めて手に入る状態になります。
どの会社に関係する話か
以下の表は、この機能が自社に関係するかどうかを判断するための目安です。
| 状況 | 関係度 |
|---|---|
| Microsoft 365を全社導入しており、CopilotやChatGPTを業務利用している | 高:すぐ確認する価値あり |
| Microsoft 365は使っているが、AIツールは個人任せで統一されていない | 中:まず利用実態の把握に使える |
| Google WorkspaceがメインでMicrosoft 365は一部のみ | 低:Agent Dashboard単体の恩恵は限定的 |
| AIツールはまだほとんど使っていない | 低:ただし今後の導入管理の設計に参考になる |
Microsoft 365を軸にした環境で複数のAIツールを使っている会社、あるいはこれから組織的なAI導入を始めようとしている会社に関係が深い話です。
[ChatGPTを業務でどう使い始めるか迷っている場合は、このガイド(/chatgpt-guide/)も参考にしてください。AIツールを導入する前に、プランや用途の整理が必要になることが多いです。]
実際に試してみる前に確認すること
Viva InsightsのAgent Dashboardを確認してみようと思ったとき、いくつかの前提を押さえておく必要があります。
まず、Microsoft 365の管理者権限が必要です。一般社員のアカウントではAgent Dashboard自体が表示されないことがあります。IT担当者または管理者に「Viva InsightsのAgent Dashboard、見られますか」と聞くのが最初の一歩になります。
次に、サードパーティのAIツールがViva Insightsとの連携に対応しているかどうかを確認します。Microsoftは2026年10月時点でいくつかのツールとの連携を発表していますが、すべてのAIサービスが自動的に表示されるわけではありません。ChatGPTのビジネスプランなど、企業向けの契約をしているツールが対象になるケースが多いとみられています。個人アカウントで使っているものは対象外になる可能性が高い点は注意が必要です。
さらに、データの収集にはプライバシーポリシーへの対応も関わります。社員のAI利用状況をどの粒度で可視化するかは、会社としての方針が必要な領域です。利用を試みる前に、IT担当者と人事・総務の担当者で方針を確認しておくことが現実的な順序です。プロンプトの設計と同様、[利用目的と管理方針を事前に言語化しておくこと(/prompt-engineering-guide/)]がこのような管理機能を正しく使うための土台になります。
まとめ
「社内でAIが使われているのはわかっているが、実態が見えない」という状況は、AI導入の初期段階でほぼ必ず起きる問題です。今回のViva InsightsのAgent Dashboard拡張は、この問題に対してMicrosoftが具体的な解決策を出してきたという意味で注目に値します。
ただし、この機能が有効に機能するのは、Microsoft 365を中心に複数のAIツールを使っている会社です。Google Workspaceや独立したシステムが主軸の場合、直接の恩恵は限られます。自社の環境と今回の機能の範囲を照らし合わせてから動くかどうかを判断するのが現実的です。
どのAIツールをどう管理していくかについて整理したい場合、自社の現状を外部に相談する方法もあります。AIスキルハックでは、中小企業のAI導入・活用に関する相談を受け付けています。


