エンジニア2人が「数百人分」の仕事をこなした

AI検索サービスを手がけるPerplexityが、2026年9月に公開した研究レポートが静かに注目を集めています。同社は「CobbleDB」と呼ばれるキーバリュー型データベース(WebページのURLとその内容を紐づけて高速に取り出すための仕組み)を構築しました。このインフラを作ったのは、エンジニア2人と「数百体の自律型AIエージェント」です。期間はわずか2か月でした。
AIエージェントとは、人間が細かく指示を出さなくても、目標に向かって自分でタスクを考え、実行し、結果を確認しながら動き続けるAIの仕組みです。ChatGPTのように「質問に答えるだけ」ではなく、「コードを書いてテストして、エラーが出たら修正して、次の作業に進む」という一連の流れを自律的にこなします。Perplexityはこうした常時稼働のエージェントを大量に走らせ、コアとなるインフラ開発を進めたわけです。
この事例が面白いのは、「AI企業が最先端の技術を使いました」という話で終わらない点にあります。2人という数字は、多くの中小企業の開発チームや情報システム担当者の規模と重なります。「うちにも情シスが1〜2人いるけど、手が回らない業務が山積み」という状況は珍しくないはずです。
Perplexityの事例から読み取れること
CobbleDBは、Perplexityの検索結果を支えるWebコンテンツを配信するためのデータベースです。検索サービスの根幹を担うインフラであり、規模も信頼性要件も高いシステムです。それをエンジニア2人が2か月で仕上げた背景には、AIエージェントが「調べる・書く・テストする・修正する」というサイクルを高速で回し続けたことがあります。
従来であれば、この規模のインフラ構築には10人前後のエンジニアが数か月かけて取り組むのが一般的な見積もりとされてきました。人間のエンジニアがAIエージェントを「監督・方向修正する役割」に徹することで、開発速度と品質を両立させた形です。Perplexityが強調しているのは「AIが人間の代わりをした」ではなく「人間とAIの役割分担が変わった」という点です。この違いは、自社での活用を考えるときに重要な視点になります。
ただし、同社の事例をそのまま中小企業に当てはめることはできません。Perplexityにはそもそも高度なエンジニアが複数おり、AIエージェントを扱う技術的な基盤もあります。重要なのは「結果の数字」ではなく、「少人数でも役割分担を変えればアウトプットが変わる」という構造の部分です。
中小企業で「少人数×AI」を実現している現場
実は、規模は違っても同じ発想でAIを使い始めている中小企業は国内でも増えています。ここでは、AIエージェントや自動化ツールを活用した取り組みのパターンを整理します。
以下は、従業員30〜80人規模の中小企業におけるAI活用の典型的なパターンと、導入前後の工数変化の目安です。筆者がヒアリングや公開情報をもとにまとめたものです。
| 業務カテゴリ | 導入前の担当人数 | 活用ツール例 | 工数削減の目安 | 主なつまずきポイント |
|---|---|---|---|---|
| 見積書・提案書の初稿作成 | 営業2〜3人が都度作成 | ChatGPT等の生成AI | 初稿作成時間を60〜70%削減 | 社内フォーマットへの当てはめ |
| 問い合わせ対応の一次仕分け | カスタマー担当1〜2人 | チャットボット+AI分類 | 対応件数あたり工数を40〜50%削減 | FAQ整備の初期コスト |
| 在庫・発注データの集計・報告 | 事務担当1人が手動集計 | RPA+Excelマクロ+AI要約 | 週次レポート作成を80%以上削減 | 既存システムとの連携 |
| 求人票・社内文書の作成 | 人事担当が都度作成 | 生成AI+テンプレート管理 | 作成時間を50〜65%削減 | 品質チェックのフロー設計 |
この表が示すのは「AIで全部自動化できる」ではありません。どのケースでも、AIが出したものを人間が確認・修正するプロセスが残ります。Perplexityの事例でも、2人のエンジニアはエージェントの動きを監督し、方向性を決め続けていました。この「判断する人間+動かすAI」の組み合わせが、少人数でも大きな仕事ができる理由です。
「うちには関係ない」と思う前に確認したいこと
従業員40人の製造業で、総務・経理を1人で兼務しているケースを考えてみます。月末になると請求書の確認・発行・入力に丸2日かかる。それ以外にも採用対応、備品管理、社内連絡のとりまとめが積み重なります。AIをシステム開発に使う話は「大企業やIT企業の話」に見えるかもしれません。しかし、この担当者がやっている業務の多くは「決まった形式の文書を確認・生成・送付する」という繰り返し作業です。これはAIエージェントが最も得意とする領域と重なります。
また、営業担当が3人いる会社を例にとると、毎週の商談記録をCRMに入力し、週次報告書を作成し、次週のアプローチリストを整理する作業には1人あたり2〜3時間かかっていることが多いです。これをAIに補助させれば、その時間を顧客との対話に使えます。
すでにChatGPTの使い方をある程度把握している担当者であれば、こうした業務改善の入り口はすぐそこにあります。問題は「どこから手をつけるか」の見極めです。
どの業務をAIに任せるか判断する目安は、「繰り返している」「フォーマットが決まっている」「判断基準が文書化できる」の3つが揃っているかどうかです。これらが揃っている業務は、少人数でも自動化の恩恵を受けやすい場所です。
AIエージェント活用の現在地と落とし穴
Perplexityのような事例は、AIエージェントの可能性を象徴しています。一方で、中小企業が同じことを明日からできるかというと、準備が必要な部分もあります。
現在、AIエージェントを手軽に使えるサービスとしては、Microsoft Copilot(Microsoft 365に統合されたAIアシスタント)やGoogle Workspace向けのGemini、あるいはMake・Zapierといった自動化ツールとAIを組み合わせたものがあります。これらは月数千円〜数万円の範囲から試せるものが多く、大規模なシステム開発なしに始められます。
ただし、どのツールでも「プロンプトをどう書くか」「どの業務に使うか」の設計次第で効果が大きく変わります。プロンプトの書き方を丁寧に設計しないまま試して「使えない」と判断するケースは実際に多く、入口での設計の質が結果を左右します。
落とし穴として特に注意したいのは「初期設定を誰がやるか」という問題です。Perplexityの事例では、AIエージェントを動かす「設計と判断」を担えるエンジニアがいました。中小企業でも、同じく「AIに何をやらせるか」を整理できる人が社内に1人いるかどうかが、活用の成否を分けることが多いです。外部に相談しながら進める選択肢も含め、体制をどう作るかは早い段階で考えておく価値があります。
まとめ
Perplexityの事例が示しているのは、技術の話というより「チームの作り方」の変化です。2人のエンジニアがAIエージェントを使って数百人分に相当する作業を処理したという事実は、少人数でも業務の仕組みを変えれば出力が変わることを具体的に見せています。
中小企業にとって意味があるのは、その「仕組みの変え方」の部分です。開発に限らず、書類作成・データ集計・顧客対応など、繰り返し発生する業務を棚卸しして「AIが動ける余地はどこか」を一度見てみることが、出発点になります。規模や業種を問わず、人手不足を感じているなら、この問いは今持っておいて損はありません。
自社の業務でどこから手をつけるべきか迷う場合は、AIツールの選定や業務設計の相談窓口を活用することも一つの手です。


