AIが「調べる」だけでなく「動く」ようになってきた。PerplexityがAIエージェント向けの実行基盤「SPACE」を公開し、技術的な詳細を自社ブログで明らかにしました。名前だけ聞いても何のことかわからない方も多いと思いますが、この仕組みはAIが長時間・複数ステップの作業を安全にこなすための土台であり、今後のビジネス利用に直結する話です。この記事では、SPACEの概要と、それがビジネス現場にどう関係してくるかを整理します。
AIエージェントが「長時間動き続ける」とはどういうことか

ChatGPTやPerplexityを使う場面を思い浮かべると、多くの場合は「質問して、回答をもらって終わり」というやり取りです。しかし最近のAIは、それだけでは済まない使われ方をし始めています。たとえば「競合他社の最新情報を調べて、Excelにまとめて、要約レポートをSlackに投稿する」といった一連の作業を、AIが自律的にこなすケースが増えてきました。こうした動き方をするAIを「エージェント」と呼びます。
エージェントが便利なのは明らかですが、問題があります。作業が複数ステップにわたると、処理時間が数分から数十分に及ぶことがあります。その間、AIは外部のウェブサイトにアクセスしたり、コードを実行したり、ファイルを読み書きしたりします。これを無防備にやると、悪意のあるサイトのコードが実行環境に侵入したり、別のユーザーのデータと混ざり合うリスクが生じます。つまり「長時間・複数ステップで動くAI」を安全に運用するには、それ専用のインフラが必要になるわけです。
SPACEが解決しようとしている問題
Perplexityが公開した「SPACE(Secure and Efficient Runtime for Long-Running Agents)」は、まさにこの問題に向けて設計されたサンドボックス基盤です。サンドボックスとは「砂場」の意味で、外の世界と切り離された安全な実行空間のことを指します。子どもが砂場で遊んでも、庭の芝生が汚れないのと同じ発想です。
SPACEは、エージェントが動くたびに独立した実行環境を用意します。コードの実行、ファイルの保存、ウェブへのアクセスはすべてその隔離空間の中で完結するため、別のユーザーの処理や、本番システムに影響が及びません。PerplexityはこのSPACEを2025年6月から「Perplexity Computer」の本番トラフィック全量で稼働させており、現時点で100%の本番処理をこの基盤上で動かしています。
技術的な詳細を少し補足すると、SPACEは「長時間セッション」を前提に設計されている点が特徴的です。一般的なWebサービスのAPIは数秒以内のレスポンスを想定していますが、エージェントが複雑なタスクをこなすには数分以上かかることがあります。SPACEはその間もセッションを維持し、途中でクラッシュしても再開できる仕組みを持っています。
「隔離された環境」が会社員の業務にどう関係するか
ここで少し立ち止まって、この話が自分ごとになる場面を考えてみます。
40代の経営企画担当者が、AIに「先月の売上データを分析して、前年比の変動が大きい品目をピックアップし、その原因を調べてレポートにまとめて」と頼んだとします。この作業をAIエージェントにやらせると、データの読み込み→計算→ウェブ検索→文章生成という複数のステップが発生します。もしこの処理が安全に隔離された環境で動いていなければ、会社の売上データが他のユーザーの処理と混在するリスクがゼロではありません。SPACEのような基盤があることで、企業がAIエージェントを業務に使う際のセキュリティ上の懸念が一段階下がります。
また、30代の人事担当者が採用管理ツールとAIを連携させて「応募者情報を整理し、スクリーニング基準に照らして一次評価をまとめる」という作業を自動化する場合も同様です。個人情報を扱う処理が他の処理と混ざらない保証は、業務で使う上での最低条件になります。AIエージェントの実用化が進むほど、こうした実行基盤の信頼性が問われるようになります。
AIエージェント基盤の競争という文脈で読む
今回のSPACEの公開は、単なる技術発表ではなく、AIエージェント市場での競争の一場面として読むほうが実態に近いです。
OpenAIはCodexやOperatorでエージェント機能を拡充しており、AnthropicはClaude向けのコンピュータ操作機能を提供しています。Googleも同様の方向に動いています。各社がエージェントの「できること」を競う一方で、「安全に動かせるか」という実行基盤の信頼性も差別化の軸になりつつあります。PerplexityがSPACEの技術的な詳細をブログで公開したのは、透明性を示すことで企業ユーザーの信頼を得る狙いがあると考えられます。
ChatGPTの使い方ガイドでも触れているように、AIツールを業務で使い始めると「このデータをAIに渡して大丈夫か」という疑問は必ず出てきます。その問いへの答えの一つが、実行基盤の設計にあります。SPACEの公開は、Perplexityがその問いに正面から向き合い始めたサインです。
以下に、主要なAIエージェント基盤の特徴を整理しました。各社の公開情報をもとにした比較です。
| 提供元 | 基盤・機能名 | 隔離の仕組み | 長時間セッション対応 | 公開度 |
|---|---|---|---|---|
| Perplexity | SPACE | サンドボックス(明示) | 対応 | 技術ブログで詳細公開 |
| OpenAI | Codex / Operator | コンテナベース | 対応 | 限定的な公開 |
| Anthropic | Computer Use | サンドボックス | 対応 | 概要レベルの公開 |
| Project Mariner | 非公開 | 対応 | 非公開 |
各社とも隔離された実行環境を持っている点は共通していますが、技術的な詳細をどこまで公開するかには差があります。Perplexityは今回、研究ブログで実装の詳細に踏み込んだ説明を行っており、技術者コミュニティへの訴求と企業ユーザーへの信頼構築を同時に狙っているように見えます。
AIエージェントを使う側が知っておくべきこと
SPACEの話を聞いて「自分には関係ない技術の話だ」と感じた方もいるかもしれませんが、AIエージェントが業務に入り込む速度を考えると、実行基盤の信頼性は「選ぶ側」にとっても重要な判断材料になります。
たとえば、会社でAIツールの導入を検討する立場にある場合、「このツールはどんな環境でコードを実行しているか」「複数ユーザーのデータが混在するリスクはないか」という問いは、情報システム部門や法務部門から必ず出てきます。SPACEのような技術的な説明がベンダーから提供されているかどうかは、導入判断の一つの軸になります。
プロンプトの書き方を工夫してAIを使いこなすスキルと同様に、AIをどう業務に組み込むかという視点でツールの信頼性を見極める力も、これからのビジネスパーソンには求められてきます。AIが「調べるだけ」から「動く」フェーズに入った今、使う側の目線も少しずつアップデートが必要です。
まとめ
PerplexityのSPACEは、AIエージェントが長時間・複数ステップの作業を安全にこなすための実行基盤です。技術的な話ではありますが、その背景にあるのは「AIに業務を任せる際のセキュリティをどう担保するか」という実務上の問いです。AIエージェントの活用が広がるほど、こうした基盤の設計が企業のAI導入判断に影響を与えるようになります。自分の会社でAIツールを選ぶ場面が来たとき、「どんな環境で動いているか」を一つの確認項目として頭に入れておくと、判断の精度が上がるはずです。

