外部講師を使わなくても、社内研修はできます。必要なのは「60分の枠」と「AIが生成した演習テーマ」と、回す担当者1人だけです。
この記事では、研修会社に頼む予算がない中小企業が、担当者1人で社内勉強会を設計・運営するための手順を説明します。営業・事務・現場それぞれに合った演習テーマの作り方も含めて紹介します。
まず「翌日から使える」を目標にする
社員にAIを教える研修がうまくいかないパターンは、「概念を教えて終わる」です。AIとは何か、どんな仕組みか——そこに時間を使うと、参加者は「なるほど」と思いながら、翌日の業務では何も変わりません。
目標はシンプルに設定してください。「この勉強会が終わったら、参加者が明日の業務で1回AIを使える」。これだけです。
そのために、演習は自分の仕事に直結したテーマにします。営業担当には「商談前の企業調査をAIにやらせる」、事務担当には「議事録の要約をAIに依頼する」、現場担当には「手順書の下書きをAIに書かせる」。職種が違えば、演習テーマも変わります。
演習テーマをAIで生成する方法
ここが手間に感じる担当者が多いのですが、演習テーマ自体をAIに作らせることができます。ChatGPT(チャットで指示を入力するとテキストを生成してくれるツール)やClaude(同種のツール)に対して、次のような指示を入力してください。
入力例(事務職向け):
中小企業の経理・総務担当者が、ChatGPTを使って実際の業務で試せる演習テーマを5つ考えてください。難しい設定は不要で、明日すぐに使えるものにしてください。1つの演習は5〜10分で完結する内容にしてください。
これで出てくる案をそのまま使う必要はありません。自社の業種や実態に合わせて1〜2つ選んで使えばいいです。
職種別に分けると、入力のパターンはこうなります。
- 営業向け: 「営業担当者が商談準備や提案書の下書きにAIを使う演習テーマを5つ」
- 事務・経理向け: 「総務・経理担当者が日常業務でAIを試せる演習テーマを5つ」
- 現場・製造・店舗向け: 「現場スタッフが報告書の作成や手順確認にAIを使う演習テーマを5つ」
職種の人数が少ない場合は、1回の勉強会に複数職種が参加しても構いません。演習の時間に「自分の仕事に近いテーマを選んでやってみる」という形にすれば、参加者が自分で選ぶ余地ができます。
60分の勉強会フォーマット
外部講師なしで担当者が回せる構成です。準備物は、プロジェクターかモニター、各自のPCまたはスマートフォン、演習テーマを書いたスライドかメモ用紙だけです。
時間の割り振り
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 0〜10分 | ウォームアップ:担当者がAIに話しかける様子をその場で見せる |
| 10〜30分 | 演習:各自が実際にAIを使ってテーマをやってみる |
| 30〜45分 | 共有:2〜3人に結果を見せてもらい、担当者がコメントする |
| 45〜60分 | 次のアクション確認と質問 |
最初の10分は説明ではなく「デモ」にしてください。担当者がスクリーンに映しながら実際にChatGPTに指示を入力し、返ってきた文章を見せる。これだけで「自分でもできそう」という印象が変わります。
演習の20分は、参加者が手を動かす時間です。担当者はこの間、席を回って詰まっている人に声をかけます。「うまくいかない」場合のほとんどは、指示の書き方が短すぎることです。「もっと具体的に書いてみてください」と一言添えれば解決することが多いです。
共有の場面では、良い結果だけでなく「うまくいかなかった」事例も歓迎する雰囲気を作ってください。「こう入力したら変な返答が来た」という話のほうが、参加者の学びになります。
具体的な場面:従業員35人の食品卸の場合
東京都内の食品卸会社(従業員35人)では、総務担当者1人が社内勉強会を月1回開催しています。参加者は毎回7〜8人で、営業・事務・倉庫管理が混在した構成です。
この会社では、勉強会の前日に担当者がChatGPTを使って職種別の演習テーマを3〜4個作成し、当日スライド1枚に書いて映すだけです。準備時間は30分以下です。
最初の回は「メールの返信文を書いてもらう」という演習から始めました。参加者全員がスマートフォンでChatGPTを開き、実際の業務メールを参考にしながら返信文を生成。「こんなに早く書けるなら使える」という声が出て、2回目以降の参加率が上がりました。
倉庫担当には「在庫確認の報告メールの下書き」を演習テーマにしたところ、これまでメール作成に苦手意識があったスタッフが自分でAIを使うようになったという話もあります。
うまくいかない条件と注意点
参加者のデバイスが用意できない場合
ChatGPTは個人スマートフォンでも使えますが(無料プランあり)、会社の情報セキュリティポリシーによっては個人端末の利用を制限していることがあります。会社として利用を認める端末とアカウントをあらかじめ決めてから実施してください。
社内の機密情報を演習に使わない
ChatGPTなど外部のAIツールに入力した内容は、原則として外部サーバーに送信されます。演習では実際の顧客名・取引先名・個人情報を使わないように参加者に伝えてください。「仮の会社名に置き換えてから入力する」と決めておくと安全です。
AIツールのセキュリティ設定については、各ツールの管理画面で確認できます。ChatGPTの場合、「設定 → データコントロール」から学習への使用をオフにできます。
担当者自身がAIを使い慣れていない場合
担当者がAIツールを1週間ほど自分で使ってから勉強会を開催するのが現実的です。教えられる状態になっていない担当者が仕切ると、参加者の質問に答えられない場面が増えます。「私も使いながら覚えている段階」と正直に伝えたうえで一緒に試す形にしても構いませんが、最低限のデモは事前に練習しておいてください。
継続するための設計
1回やって終わりになる会社は多いです。継続させるには、毎回「前回の演習をその後使ったか」を聞く時間を5分作るだけで変わります。使った事例が出てきたら全体に共有する。使わなかった人には「何が邪魔でしたか」と聞く。この繰り返しが、社内のAIリテラシー教育として積み上がっていきます。
研修費用を助成金でまかなえる制度もあります。人材開発支援助成金(厚生労働省)など、中小企業が使いやすい制度の概要と費用の相場は生成AI研修の費用と助成金:中小企業が今年度使える制度と相場を整理にまとめています。
社内に勉強会を回せる人材がいない、どこから手をつけるか分からないという場合は、当メディアの問い合わせ窓口からご相談ください。自社の状況に合った進め方を一緒に整理します。


