RIZAPグループが9月3日に出した告知で、連結子会社であるRIZAP株式会社の社員が、個人で使用していた外部の生成AIサービスへ顧客の情報を誤ってアップロードしていたことが明らかになりました。入っていたのは氏名や保険証記号番号だけでなく、高血圧症や糖尿病といった疾患情報です。入口になったのは会社が導入したツールではなく、社員が私用で使っていたサービスでした。この記事では、公式発表で示された事実を整理したうえで、従業員10〜100人規模の会社が自社で確認できることを並べます。
公表された事実
誤アップロードが起きたのは、RIZAP株式会社の健康経営・保険者事業部です。社員が特定保健指導管理システムのデータ集計作業をしている最中に、対象データを個人で使用していた外部の生成AIサービスへ上げました。対象になったのは、2026年1月1日から8月19日までにこのシステムへ登録された特定保健指導対象者データの一部です。個人情報としては保険証記号番号、メールアドレス、氏名、生年月日、性別が含まれ、一部の人については住所と電話番号も入っていました。
会社はこれとは別に、要配慮個人情報が含まれていたことも公表しています。特定保健指導の支援形態、つまり積極的支援、動機付け支援、重症化予防のいずれかという区分と、高血圧症、糖尿病、脂質異常症のいずれか、または複数に該当する人の疾患情報です。要配慮個人情報は個人情報保護法が別枠に置いている区分で、取得に本人の同意が要り、オプトアウトによる第三者提供も認められません。健康診断や保健指導を扱う部署は、この区分の情報を日常的に持っています。
RIZAPグループは生成AIサービスの運営事業者へ即時照会し、その事業者以外の第三者に閲覧された可能性と、生成AIの学習に利用された可能性はないことを確認したとしています。事業者から得た回答は2つで、個人を特定できる情報を含むファイルはアカウント側で会話データの学習利用が許可されていても自動システムがモデルの訓練に使うことはない、というものと、アップロード後24時間以内に削除されたファイルも訓練には使われない、というものです。今回は事象の発見直後に作業者本人がチャット履歴を削除し、学習データの利用を止める設定も行っていて、この削除はアップロードから24時間以内に済んでいました。会社はこの2点を合わせて、第三者が同じサービスで関連する質問をしても情報が出力される可能性はないと判断しています。
一方で、運営事業者の役職員が情報を閲覧できる状態にあったかどうかは、現在も確認中です。個人情報保護委員会への報告は完了していて、対象者へはデータの提供元である団体や企業と個別に調整したうえで、RIZAPまたは提供元から順に連絡が行われています。対象人数、使われた生成AIサービスの名称、運営事業者名は公表されていません。誤アップロードがあった日と、それを発見した日も明らかにされていません。
起点になった「個人アカウント」
この件で中小企業が見ておく価値があるのは、使われたのが会社の契約したサービスではなく、社員が個人で使用していたサービスだった点です。再発防止策として最初に挙げられたのも、社内で許諾されていない生成AIサービスの業務利用を禁止することを、改めて全社へ周知するという内容でした。会社としては許可していなかったことになります。
会社が把握していないツールを従業員が業務で使う状態は、以前からシャドーITと呼ばれてきました。かつては無料のファイル共有サービスや個人のチャットアプリが問題になりましたが、生成AIはブラウザを開くだけで使えて、しかも作業が実際に速く終わります。禁止されていると知っていても、締め切りが近ければ手が伸びます。
作業の中身が集計だったことも見逃せません。表計算ソフトで半日かかる集計を、ファイルを1つ貼るだけで片付けられるなら、そちらを選ぶ理由は十分にあります。悪意があって起きたというより、目の前の仕事を早く終わらせようとした結果として起きる形です。だからこそ、注意喚起だけでは同じことが繰り返されます。
同じ形が起きる会社の条件
従業員40人の製造業で、総務担当が健康診断の結果を部署ごとに集計する場面を考えてみます。PDFで届いた結果を一覧にする作業は手間がかかるので、担当者が普段から使っている生成AIに貼り付けたくなります。この時点で、会社は何が起きたかを知る手段を持っていません。
営業3人のチームが展示会で集めた名刺データを整理する場面も同じです。会社名と担当者名と連絡先が並んだファイルを整形するだけの作業に見えますが、そこに入っているのは他社の従業員の個人情報です。
こうした形が成立するのは、次の3つが揃っているときです。会社として使ってよいAIサービスの一覧がないこと、入れてよいデータと入れてはいけないデータの線引きが文書になっていないこと、そして誰が何に使っているかを会社側が把握できていないことです。1つ目と2つ目については、社内AIに入れてよい情報・ダメな情報の線引き基準で判断の材料を整理しています。
今日のうちに確認できる4項目
自社が同じ形になっていないかは、次の順で確認できます。特別なツールは要りません。
- 会社として契約している生成AIサービスがあるか。ある場合、その名前を全従業員が言えるか
- 個人のアカウントで業務のデータを扱ってよいかどうかを、書いたものとして持っているか
- 顧客情報や従業員の健康情報を扱う部署で、AIを使った作業が発生していないか
- 事故が起きたとき、どのサービスの誰に照会すればよいかが分かるか
4つ目でつまずく会社は多く、これは個人アカウントを使っていると特に起きます。会社と事業者の間に契約がないため、そもそも問い合わせる立場にありません。今回、運営事業者へ即時照会して学習利用に関する回答を得られたことが、被害の範囲を絞り込む材料になりました。
個人アカウントと会社が契約したプランでは、事故が起きた後にできることが変わります。
| 見る点 | 個人のアカウント | 会社が契約したプラン |
|---|---|---|
| 入力データの学習利用 | 利用者本人しか設定を変えられず、会社からは状態を確認できない | 管理者が組織全体にまとめて設定でき、契約書でも条件を確認できる |
| 利用の記録 | 会社側に残らない | 管理画面で、いつ誰が使ったかを追える |
| 退職・異動のとき | アカウントは個人の手元に残る | 会社側で停止できる |
| 事故が起きたとき | 照会する窓口が会社にない | 契約上の窓口があり、事実確認を求められる |
料金が上がるという理由で法人契約を見送る会社もありますが、比べる対象は月額ではなく、事故が起きたときに何ができるかです。自社の業務でどこまで必要かの判断がつかない場合は、AI導入・社内研修のご相談としてお受けしています。
全面禁止を選んだ場合の副作用
事故を知った会社が最初に考えるのは、生成AIの業務利用を全面的に禁止することです。ただ、今回の件でも社内で許諾されていないサービスが使われていました。禁止という言葉があっても、行動のほうは変わっていません。
禁止で止まる会社では、使っている人が申告しなくなります。会社から見て何も起きていないように見えるだけで、実際には把握できない使い方が増えます。事故が起きたときに発見が遅れるのは、この状態です。
現実的なのは、使ってよいサービスを会社として1つ決めて、全員に配ることです。選択肢を1つに絞れば、学習利用の設定も、権限の管理も、事故が起きたときの照会先も1か所で済みます。何を書けばよいかが分からない段階であれば、中小企業のAI社内ルールを最短で作る手順とひな形が出発点になります。
まとめ
今回起きたのは、生成AIの性能や安全性の問題ではありません。会社が用意していないツールで、会社のデータが扱われたという問題です。同じ条件は、健康情報を預かる会社に限らず、顧客名簿を持っているすべての会社にあります。
今日できることを1つだけ挙げるなら、会社として使ってよい生成AIサービスを決めて、その名前を全従業員に伝えることです。ルールの文書化はその後で構いません。名前が1つ決まっているかどうかで、事故が起きたときに会社が取れる手段が変わります。社員がどう使うかまで揃えたい段階になったら、外注なしで社員にAIを教える社内研修の回し方で進め方をまとめています。
なお、今回の対象になった可能性がある人の問い合わせ先として、RIZAP特定保健指導サポート事務局の窓口(電話0120-791-276、平日9時から18時)が案内されています。
出典: 子会社における外部生成AIサービスへのお客様情報の誤ったアップロードに関するお詫びとお知らせ(RIZAPグループ) / ライザップ、利用者の個人情報を生成AIに誤送信 疾患情報も 同社謝罪(CNET Japan)


