「情シスがいない」中小企業の救世主になるか?SmartHRが「情シスAI BPaaS」の事前登録を開始

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「誰かがやっている」では回らなくなってきた情シス業務

記事内図解

従業員30〜50人規模の中小企業で、情報システム担当(情シス)の専任を置いているところはまだ少数派です。IPAが公表している「企業のIT活用実態調査」でも、従業員100人未満の企業では情シス専任がいない割合が6割を超えており、多くの場合は総務や経理の担当者が「ついでに」IT管理を担っています。しかし最近、その「ついでに」が通用しなくなってきています。クラウドサービスのアカウント管理、入退社時のID棚卸し、セキュリティインシデントへの対応、各部門からのPCトラブル問い合わせ——これらが積み重なると、週に5〜10時間分の作業量になることも珍しくありません。本業の片手間でこなせる量を、とっくに超えているケースが増えています。

そこに2026年10月30日、SmartHRが「SmartHR 情シスAI BPaaS」の事前登録受付を始めると発表しました。「情シス業務の設計・運用・改善を一体で提供する」というコンセプトで、AI時代の情シス業務を一気通貫で支援するというものです。この記事では、サービスの内容・対象企業・使う前に確認しておきたいことを整理します。

SmartHR 情シスAI BPaaSとは何か

まず「BPaaS」という言葉を確認しておきます。BPaaS(Business Process as a Service)とは、業務プロセスそのものをクラウド経由で提供するサービスモデルです。ソフトウェアのライセンスを購入して自社で運用するのではなく、「業務の実行ごと」を外部に委ねるイメージです。今回のサービスはそこにAIを組み込み、情シス業務の「設計→運用→改善」というサイクルを外部から丸ごと支援する構造になっています。

SmartHRはもともと労務管理クラウドとして知られていますが、人事・労務データをベースに社内システムとのID連携や入退社フローの自動化を得意としてきました。今回のサービスはその延長線上にあり、人事データと情シス業務をつなぐところで強みを発揮しようとしています。具体的に何ができるかは事前登録後の案内で順次公開される見込みですが、プレスリリースの表現から読み取れるのは「設計(どの業務をどう整理するか)」「運用(日常的な情シスタスクの実行)」「改善(業務フローの見直し)」の3フェーズをまとめて引き受ける点です。

中小企業の情シス実態:兼任担当者がどれだけ消耗しているか

経済産業省の「DX推進指標」関連調査や各種ITベンダーのレポートを見ると、従業員50人未満の企業では情シス業務を専任で担う人員がいない割合は7割前後に上ります。そして兼任で対応している担当者(多くの場合は総務・経理・庶務兼任)の工数実態を見ると、月平均20〜40時間を情シス的な作業に割いているケースが報告されています。

40時間といえば、1週間のフルタイム労働に相当します。本来の総務・経理業務をこなしながら、この時間を「見えないコスト」として吸収しているわけです。従業員40人の卸売業A社(仮名)では、総務担当の2人が入社・退社のたびにSlack・Googleワークスペース・freee・勤怠システムのアカウント設定を手作業でこなしており、月次の棚卸し作業だけで丸1日が吹き飛んでいました。この種の「手作業の積み重ね」は、ITツールの導入が進むほど増えていくというジレンマがあります。ツールが多くなるほど管理対象が増えるからです。

SmartHR 情シスAI BPaaSが狙っているのは、まさにこの部分です。AIが定型的な管理業務を肩代わりし、人間は例外判断だけを見ればいい状態を作ることで、兼任担当者が本業に戻れるようにする——という設計思想は、現場の課題感と合っています。

「外注」と「BPaaS」は何が違うのか

情シス業務を外部に任せる方法は、今回のサービスが初めてではありません。IT運用を請け負うMSP(マネージドサービスプロバイダー)や、派遣・業務委託で情シスを補う方法は以前からあります。ただ、従来のアウトソーシングと今回のBPaaSモデルには、中小企業目線でいくつか違いがあります。

従来の外注は「何をやってもらうか」を自社で定義してから発注する必要がありました。つまり、どの業務を整理してどこまで委ねるかを考えられる人材が、自社に最低でも1人必要だったわけです。情シスがいない会社にとって、これが高いハードルでした。「設計から一体で提供する」というSmartHRの表現が意味するのは、この「何をやってもらうか」の整理そのものも支援するということです。自社で業務を定義できなくても入口に立てる、という点が従来のアウトソーシングとの大きな差になり得ます。

ただし、どのプランでどこまで対応するか、費用感、契約期間といった詳細は現時点では公開されていません。事前登録フォームでの情報収集を経て、正式リリース時に明らかになる見込みです。比較検討の段階では、既存のMSPサービスや専任採用のコストとも照らし合わせることが必要になります。なお、SmartHRの既存プランを契約していない会社でも事前登録自体は可能とのことです。

中小企業が「自分ごと」として判断するための軸

向いている会社の特徴

情シス専任がおらず、総務や経理の担当者がIT管理を兼任している——この状態の会社には、検討する価値があります。特に、SmartHRの労務管理クラウドをすでに使っている場合は、人事データとの連携がスムーズになる可能性が高く、導入ハードルは相対的に低くなります。また、入退社の頻度が高い企業(小売、飲食、サービス業などの人員変動が多い業種)では、アカウント管理の手間が大きく、自動化の恩恵を受けやすい状況です。

一方で、社内システムが特殊なオンプレミス環境に依存していたり、セキュリティポリシーが厳格で外部サービスへのデータ連携が難しい業種(医療、金融、一部製造業など)では、適合するかどうかを詳細確認する必要があります。サービス詳細が出揃った段階で、IT管理のうちどの業務をカバーするのかを具体的に確かめることが先決です。

SmartHRをまだ使っていない場合

SmartHRの労務管理クラウドは、基本プランが従業員数に応じた月額課金です。今回の情シスAI BPaaSは独立したサービスとして事前登録を受け付けていますが、既存の労務管理機能との連携が前提になる可能性があります。正式リリース前に事前登録しておくことで、詳細情報を早期に受け取れる点は確認しておく価値があります。

「情シスをAIに任せる」という選択肢が現実的になってきた背景

AIを情シス業務に使う発想自体は、ここ1〜2年で急速に現実的になっています。ChatGPTの活用方法をまとめたガイドでも触れているように、問い合わせ対応の自動化や手順書の生成はすでに実用レベルに達しています。SmartHRが今回踏み込んだのは、そこから一歩進んで「業務の設計まで含めて外部が担う」という領域です。これはAIの性能向上だけでなく、中小企業のIT人材不足が限界に近づいているという需給両面の変化が後押ししています。

専任情シスを採用するには、IT系の採用市場が逼迫している今、年収500万円以上の人材を確保するのは中小企業には現実的でないケースが多くあります。かといって何もしなければ、サイバー攻撃や情報漏洩リスクは年々高まります。この空白を埋める手段として、AIベースのBPaaSという選択肢が登場してきたのが今の状況です。

なお、AIを活用したプロンプトの設計や社内業務への組み込み方を整理したい場合は、プロンプトの書き方ガイドが実務の入口として参考になります。

まとめ

SmartHRの「情シスAI BPaaS」は、情シス専任を持てない中小企業にとって「外注のハードルを下げる」アプローチとして注目に値します。ただし、費用・カバー範囲・契約条件はまだ不明な部分が多く、「使う」か「見送る」かを判断できるのは正式リリース以降になります。今の段階でできることは、事前登録をして情報を早めにキャッチアップしておくことです。登録だけであれば費用はかかりませんし、自社の情シス業務の現状を棚卸しするきっかけにもなります。

「うちの情シス業務、何時間かかっているか数えたことがなかった」という会社こそ、一度その数字を出してみると、検討の優先度が変わるかもしれません。

どこから整理すべきか判断がつかない場合は、AI導入や業務改善の相談窓口を利用して、自社の状況を第三者の目で見てもらうことも一つの方法です。

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