月末になると、経理や営業の担当者が各部署のExcelファイルをかき集め、コピペで一つの集計表を作る――そんな光景は、従業員50人以下の会社でも珍しくありません。OpenAIはChatGPT Workに「Data agent」という機能を追加しました。自然な日本語の指示だけで、社内データをつないでグラフやダッシュボードを作れるというものです。この記事では、Data agentが何者で、どの規模・どの部署で使えそうか、何を準備すれば試せるかを整理します。
「Data agent」とは何をするものか

Data agentは、ChatGPT Work(ChatGPTのビジネス向けプランで提供されるサービス)に追加された機能で、会社のデータソースに接続し、AIとの会話形式で集計・分析・グラフ化を行えるものです。「先月の売上を商品カテゴリ別に見せて」「在庫が30日分を切っているものを赤くハイライトして」といった指示を入力すると、AIが処理してインタラクティブなダッシュボードを生成します。
ここでいう「インタラクティブ」とは、生成したグラフの期間を後から切り替えたり、絞り込み条件を変えたりできる状態のことです。Excelのピボットテーブルをイメージしてもらうとわかりやすいですが、それをGUIで操作するのではなく、言葉で動かすイメージに近いです。プログラミングやSQLの知識は必要ありません。
重要なのは「接続」の部分です。毎回CSVをアップロードするのではなく、会社のスプレッドシートやデータベースをData agentと連携しておくことで、常に最新のデータを呼び出せる設計になっています。この連携設定は初回に必要ですが、一度つないでしまえば以降の分析は会話だけで進められます。
中小企業の「データ活用の壁」がどこにあるか
従業員30人規模の製造業や小売業の場合、売上データはPOSやスプレッドシートに、在庫は別のシステムに、顧客情報はまた別のファイルに分散していることが多いです。これを定期的に一枚の報告書にまとめるために、担当者が毎月2〜4時間かけている会社は少なくありません。
BIツール(例えばTableauやPower BIなど、データを可視化するための専門ソフト)を導入すれば解決できるかもしれませんが、月額費用がユーザー数分かかり、使いこなすための学習コストも相応に必要です。TableauのCreator planは1ユーザーあたり月70ドル前後、Power BIでも本格活用には有償ライセンスが必要になります。結果として「そこまでしなくてもいいか」と判断し、Excelの手作業が続いているケースが多いのが実情です。
Data agentが狙っているのはこのポジションです。専任のデータアナリストを雇えない規模の会社でも、経営者や管理部門の担当者が自力でデータをビジュアル化できる状態を作ることが目的です。ただし、現時点でどのデータソースと接続できるかは公開情報が限られているため、自社のシステム環境がどこまで対応しているかは確認が必要です。
「データ集計に月何時間かけているか」という問い
ここで一つ、実際の業務時間を考えてみてください。
下の表は、管理部門・営業事務担当者が「月次の定型レポート作成」にかけている時間を業務別に分類したものです。一般的な中小企業の実態として参照してください。
| 作業内容 | 手作業(Excel中心)の場合 | Data agent活用後の想定 |
|---|---|---|
| 各部署からデータ収集 | 1〜2時間 | ほぼ0(接続済みなら自動) |
| コピペ・突合・クレンジング | 1〜3時間 | 10〜20分程度(指示文入力) |
| グラフ作成・フォーマット調整 | 30分〜1時間 | 5〜10分(自然言語で指示) |
| 見直し・修正対応 | 30分〜1時間 | 対話形式で即修正 |
| 合計 | 3〜7時間 | 30〜40分程度 |
これは概算であり、データの複雑さや接続設定の状況によって変わります。ただ、仮に月4時間の削減が実現できれば、年間48時間。時給換算で3,000円とすれば、14万円以上の人件費相当に相当します。中小企業においてこのインパクトは小さくありません。
具体的な活用シーン:誰が、何を、どう変えられるか
経理担当が2人の会社であれば、月次の損益集計が典型的な使いどころです。たとえば売上・仕入・経費のデータが別々のスプレッドシートに散らばっている場合、それぞれをData agentに接続し「今月の粗利率を前月比でグラフにして、下がっている費用項目があれば色分けして」と入力するだけでダッシュボードができあがります。これまで担当者が数時間かけて行っていた作業が、画面の前に座って15分程度の対話で完結する可能性があります。
営業チームが4〜5人いるサービス業の会社なら、顧客ごとの受注履歴と継続率をまとめたビューが役立ちます。「過去6ヶ月で購入頻度が下がっている顧客を抽出して、担当者別に一覧にして」といった指示が通るなら、フォローアップの優先順位付けをAIに手伝わせることができます。個人情報を含むデータを扱う場合はセキュリティポリシーの確認が先決ですが、ChatGPT WorkにはEnterprise向けのデータ管理オプションがある点は一応押さえておく価値があります。
ChatGPTの基本的な使い方については、こちらのガイドも参考になります。データ分析の前にChatGPTとの対話に慣れておくと、指示文の書き方で迷う時間を減らせます。
始める前に確認すべきこと
Data agentを使うには、ChatGPT Workのサブスクリプションが必要です。2026年9月時点では、ChatGPT Plusの上位プランに相当するビジネス向けプランに含まれる機能として提供されていますが、具体的な料金や提供形態はOpenAIの公式ページで都度確認してください。日本でのロールアウト状況も随時変わっています。
機能を試す前に整理しておくと良い点が2つあります。一つは「どのデータと接続したいか」、もう一つは「誰が管理するか」です。データソースへの接続設定は管理者権限が必要になることが多く、IT担当者がいない会社では外部のサポートが必要になるケースもあります。
指示文の書き方については、プロンプトの書き方ガイドが参考になります。Data agentへの指示も基本的にはChatGPTへの指示と同じ原則が当てはまるため、どう言葉にすれば意図が伝わるかを事前に練習しておくと、ダッシュボード作成の試行錯誤が減ります。
まとめ
Data agentは、BIツールを持てないでいた中小企業にとって、データ可視化への現実的な入口になり得る機能です。ただし「つなぐだけで全部うまくいく」とは言いにくく、自社のデータがどこに何の形式で存在するかを整理する作業は人間がやる必要があります。まずは「月次レポートで一番手がかかっている集計作業はどれか」を一つ特定し、そのデータソースがData agentと接続できるか確認することが、最初の一歩として具体的です。機能の対応範囲は今後広がる可能性が高く、今のうちに自社のデータ整備状況を把握しておくことが、後々の導入判断を速くします。
どこから手をつければよいか判断が難しい場合や、自社データのセキュリティ管理との兼ね合いに不安がある場合は、AI活用の導入相談を受け付けている専門家に聞いてみることも一つの選択肢です。


