OpenAIが公開した事例レポートに、AIを業務の中心に据えた企業3社のやり方が紹介されています。Basis、Clay、Exa Labsという3社で、それぞれオンボーディング・顧客管理・外部ツール連携の領域でAIエージェントを活用しています。AIエージェントとは、人間が都度指示を出さなくても、ある目的に向けて自律的に作業を進めるAIのことです。大企業の話に聞こえるかもしれませんが、これらの企業が取り組んでいた課題は、従業員30〜80人規模の会社でも日常的に起きていることです。この記事では、3社の事例を整理しながら、中小企業の営業・管理部門が「どこから試せるか」を判断できる材料をまとめます。
そもそもどの業務に時間がかかっているのか

AIをどこに使うかを考える前に、まず「今どの工程に時間を取られているか」を把握しておく必要があります。管理部門や営業チームが日々こなしている作業を整理すると、大きく3つの領域に分かれます。新しい顧客・社員・取引先を迎える「オンボーディング」、既存の顧客情報を更新・管理する「アカウント管理」、そして他のツールやシステムとのデータ連携です。
以下は、中小企業の管理部門・営業担当者が「最も時間がかかっている」と感じやすい工程と、AIに代替しやすいかどうかの目安をまとめたものです。
| 工程 | 手作業の発生頻度 | AI代替のしやすさ |
|---|---|---|
| 新規顧客への案内メール作成 | 毎週〜毎日 | 高い(テンプレ+顧客情報の組み合わせ) |
| 顧客情報のCRM更新 | 毎日 | 中〜高(入力補助・自動分類) |
| 社内マニュアルの検索・共有 | 週数回 | 高い(社内RAGで検索可能) |
| 他ツールとのデータ転記 | 週数回〜毎日 | 高い(API連携で自動化しやすい) |
| 顧客からの問い合わせ初回対応 | 毎日 | 中(定型は高い、判断が必要なものは低い) |
| 契約書・提案書の初稿作成 | 週数回 | 中(情報を与えれば下書きは作れる) |
この表を見ると、特にメール作成・データ転記・社内情報の検索といった定型性の高い作業は、AIエージェントが代替しやすいことがわかります。逆に、交渉や判断が伴う作業はまだ人が関わるほうが安心です。
3社がどこにAIを当てたか
Basis:オンボーディングの「案内役」をAIに
Basisは、新しいユーザーが製品を使い始める際のオンボーディングプロセスにAIエージェントを組み込みました。従来は担当者が手動で案内メールを送り、質問に答え、次のステップを説明するという流れでした。これを、顧客の状況に合わせて自動的に適切なメッセージを送り、よくある質問に答えるAIエージェントで代替しています。
従業員40人のSaaS系スタートアップで、カスタマーサクセス担当が2人しかいない状況を想像してください。月に新規顧客が20社増えると、各社への個別対応だけで担当者の時間の大半が埋まってしまいます。Basisのアプローチは、「答えが決まっている質問」と「担当者でなければ判断できないこと」を切り分け、前者をAIに任せるというものです。担当者が手を動かすのは、判断が必要な場面だけになります。
Clay:営業担当の「情報収集」を丸ごと自動化
Clay(クレイ)は、顧客管理・営業支援ツールを提供している会社ですが、自社の営業プロセス自体にもAIエージェントを活用しています。具体的には、見込み顧客のWebサイト・SNS・公開情報をAIが自動収集し、CRM(顧客管理システム)に整理して入力するという流れです。
営業担当が3人いる会社で、一人が毎日1時間を「見込み顧客の情報調べ」に使っているとしたら、月間で60時間以上が情報収集に消えています。Clayのアプローチは、この調査フェーズをAIエージェントに渡してしまうことで、営業担当者が「提案と関係構築」に集中できる状態をつくるというものです。情報を集める作業は、AIが得意とする反復性の高いタスクです。CRMにどんな情報があればいいかを決めてしまえば、入力自体は自動化できます。
なお、CRMを持っていない場合でも、まずはスプレッドシートとAIツールを組み合わせるだけで、似たような情報整理の自動化は試せます。ChatGPT活用の基本的な使い方と連携させることで、情報収集の指示出しに慣れるところから始めるのが現実的なラインです。
Exa Labs:開発者向けドキュメント対応をAIで補完
Exa Labsは検索API(特定の情報を外部から取得するための仕組み)を提供している会社で、自社のAPIを使う開発者向けのサポートにAIエージェントを活用しています。開発者からの技術的な質問に対して、ドキュメントを参照しながら回答するエージェントを設けることで、サポート担当者が対応する件数を減らしています。
中小企業に直訳はしにくい事例ですが、「社内マニュアルの問い合わせ対応」に置き換えると話が近くなります。「この手続きはどこに書いてある?」「この申請フォームはどれを使う?」——こういった質問への対応を、社内文書を学習させたAIが答える仕組みは、今すでに中小企業でも試せます。社内情報をAIに読ませて検索・回答させる仕組みは、RAG(検索拡張生成)と呼ばれる技術を使って実現されており、専任エンジニアがいなくてもSaaSツールを使えば構築できる事例が増えています。
3社の事例から読み取れる共通点
3社それぞれが取り組んでいた領域は違いますが、やっていることの構造は共通しています。「繰り返し発生する、答えがある程度決まっている作業」を洗い出して、そこにAIエージェントを当てているということです。逆に言えば、例外的な対応や判断が必要な場面は、引き続き人が担当しています。AIを全部任せるのではなく、「定型部分だけを切り出して自動化する」という考え方です。
もう一つ共通しているのは、既存のツール・データ・フローを大きく変えないまま導入していることです。CRMを捨てるのではなく、CRMへの入力をAIが補助する。サポート担当者をなくすのではなく、担当者が対応する件数を減らす。この「差し込む」という設計が、中規模の組織でも取り入れやすい理由の一つです。
プロンプト(AIへの指示文)の書き方次第で、自動化の精度は大きく変わります。プロンプトの書き方ガイドで紹介しているように、AIに渡す情報の粒度と条件の書き方を工夫するだけで、汎用ツールでも業務に使える精度に近づけることができます。
中小企業が最初に手をつけるとしたらどこか
3社の事例を踏まえたうえで、「自社のどこから試すか」を考えるとき、判断の軸になるのは2つです。
1つ目は「繰り返し頻度」です。週1回しか発生しない作業より、毎日10件こなしている作業のほうが自動化の効果は大きくなります。2つ目は「答えの決まり方」です。担当者ごとに対応が変わるような作業より、誰がやっても同じ答えになるような作業のほうが、AIに任せても品質が安定します。
この2軸で考えると、多くの中小企業で最初に手をつけやすいのは「メールの下書き作成」か「社内Q&Aの自動対応」です。前者はChatGPTや類似ツールで今日から試せるレベルです。後者はSlackやNotionとAIを連携させるツールを使えば、エンジニア不要で仕組みを作れる事例も出ています。費用感としては、AIツールの利用料として月5,000〜2万円程度から始められるサービスが複数あります。
一方、顧客管理システムとの連携や、外部APIを使ったデータ自動収集は、ある程度のシステム設計が必要になります。こちらは「まず業務の設計を決めてから」の段階で検討するほうが現実的です。
まとめ
今回紹介した3社の事例に共通しているのは、AIを「全部やらせる」ではなく「定型部分だけ切り出す」という発想です。オンボーディング・顧客管理・外部連携のどの領域も、探せば「毎日繰り返している、答えが決まっている作業」は必ず見つかります。そこを1つ特定して試すことが、自社でのAI活用を動かす最初の一歩になります。
自社のどのプロセスから手をつければいいか迷う場合、または社内展開の進め方を相談したい場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。業務の種類や規模に応じて、試しやすい入り口を一緒に整理します。


