OpenAIの開発者アカウントが、マーケティングSaaS企業「Ploy AI」のキャンペーン運用事例を紹介しました。GPT-5.6 Sol(OpenAIが提供するAPIアクセス向けの最新言語モデル)を使って複数の「サブエージェント」を動かし、キャンペーン企画から配信まわりの定型作業を自動化することで、工数とコストを削減しているという内容です。この記事では、この事例から中小企業のマーケティング担当者が使えるヒントを引き出し、どの業務フェーズにAIエージェントを当てはめられるかを整理します。
そもそもAIエージェントとは何か

ChatGPTに「メールの文章を書いて」と頼むのは、AIへの「一問一答」です。それに対してAIエージェントは、複数の作業を自分でつなぎながら完結させる仕組みを指します。たとえば「先月のキャンペーンのレポートを読んで、次のメルマガの件名を5案出して、そのうち開封率が高そうなものを選んでHTML化する」という一連の作業を、人が都度指示しなくても流せるイメージです。
Ploy AIが使っている「サブエージェント」というのは、このAIエージェントをさらに分業させた形です。複数の小さなエージェント(サブエージェント)がそれぞれ得意な作業を担当し、メインのエージェントがそれらに指示を出して全体を統括します。工場のライン作業に近い構造で、一人の担当者がすべてをこなすより、分担した方が速く品質も安定します。
ここで注意しておきたいのは、今回の事例はAPIを使った開発者向けの構成だという点です。「ChatGPTにログインして使う」話ではなく、自社のシステムやツールに組み込むための話です。ただし、こうした仕組みが「どの業務で効くか」を知っておくことは、外注先や社内IT担当との会話でも役立ちます。
マーケティングのどの工程にAIエージェントが当てはまるか
Ploy AIの事例を読んで「うちは規模が違う」と感じた担当者は多いかもしれませんが、自動化が効く業務の構造はどの会社でもほぼ共通しています。マーケティング業務を「企画→制作→配信→分析」の4フェーズに分けると、AIエージェントが介入しやすい場所が見えてきます。
以下の表は、各フェーズで人手がかかっている定型作業と、AIエージェントが代替しやすい度合いを整理したものです。
| フェーズ | 人手がかかる定型作業 | AIエージェントの代替しやすさ |
|---|---|---|
| 企画 | 競合リサーチ、訴求軸の整理 | △(判断が必要なため補助が中心) |
| 制作 | コピー作成、画像キャプション、メール本文 | ◎(繰り返しが多く最も効果が出やすい) |
| 配信 | セグメント分けの条件整理、スケジュール管理 | ○(ルールが明確なものは自動化しやすい) |
| 分析 | 数値の集計、レポートのフォーマット整理 | ◎(定型の出力があれば即時代替できる) |
制作フェーズと分析フェーズは、今すぐ試せる余地が大きい領域です。企画フェーズは「AIが判断する」ではなく「AIが素材を集めて人が判断する」という使い方が現実的です。
従業員20人の会社での使い方——具体的に考える
たとえば従業員20人、マーケティング担当が1〜2名という会社のケースで考えてみます。毎月、メルマガ・SNS投稿・ブログ記事の3本柱でコンテンツを作っているとします。担当者がネックに感じているのは、コピーのバリエーション出しとSNS投稿のフォーマット統一です。毎回ゼロから書いている時間が、月に換算すると15〜20時間は消えているという話はよく聞きます。
このケースで最初に試せるのは、ChatGPTを使った「コピー量産の型化」です。製品ページのURLや過去のメルマガを読み込ませて、「同じ情報からInstagram用・メルマガ用・LINE用の3種類を出力する」というプロンプトを作っておくだけで、フォーマット調整の時間は半分以下になります。プロンプトの書き方ガイドで紹介しているように、出力の形式をあらかじめ指定しておくのが時短のコツです。
ここで「これはエージェントじゃないのでは」と思うかもしれませんが、正しい観察です。この段階は自動化ではなく「補助」です。ただしこの段階を経て、作業の流れが型化されたときに初めてエージェント化が現実になります。順番を飛ばすと、AIエージェントに何をさせるべきかが決まらないまま導入費だけかかります。
エージェント化に向いている業務の見つけ方
Ploy AIが削減できたのは、ルールが決まっている作業の繰り返しです。これは中小企業でも同じです。自社のマーケティング業務の中で「毎回同じ手順で、判断が少ない作業」をリストアップするところから始めます。
判断が少ないとは、「条件が同じなら毎回同じ結果になる」ということです。たとえば「新商品が出たらSNSの投稿文を3パターン作る」「週次でアクセスデータをまとめて担当者にメールで送る」「問い合わせに来たリードにメールを送る」などは、手順が固定しやすいためエージェント化の候補になります。一方で「この訴求が市場に刺さるか」という判断は人が担う部分で、現時点のAIに委ねきるには無理があります。
自社の業務を棚卸しするときの簡単な問いかけは「新人が入ってきたときにマニュアルを渡せば誰でもできるか」です。「できる」と答えられる作業は、エージェントにも渡せる可能性が高い。「できない」なら、まだ人が判断している部分が残っているということです。ChatGPTの使い方ガイドでも触れていますが、AIは「指示の再現」は得意でも「状況の読み替え」はまだ人に依存します。
費用と現実的なはじめ方
ChatGPTを使う場合、ChatGPT Plusプラン(月額$20前後、2026年9月時点)から試せます。APIを使った本格的なエージェント構成を組む場合は、OpenAIのAPIキーを取得して利用量に応じた従量課金になります。GPT-5.6 SolのようなAPIアクセスモデルは、利用するトークン数(処理するテキスト量)で料金が変わるため、使う前に月あたりの予算の上限を設定しておくことが重要です。
自社で開発リソースがない場合は、Zapier・Make(旧Integromat)などのノーコード自動化ツールとChatGPT APIを組み合わせる方法があります。たとえばGoogleスプレッドシートにデータが入ったらChatGPTにコピーを生成させてSlackに投稿する、という自動化なら、プログラムを書かなくても設定で動かせます。初期設定に数時間かかりますが、動いてしまえばその後は人手がいりません。
外部ベンダーへの相談を検討する場合は、「自社の定型作業をリストにして持ち込む」ことが交渉を早めます。抽象的に「AIでマーケを効率化したい」と相談するより、「月20時間かかっているこの作業を半分にしたい」と言える方が、費用感の見積もりも現実的になります。何から始めたらよいか迷う場合は、AI導入の相談窓口に業務リストを持って問い合わせてみるのも一つの方法です。
まとめ
Ploy AIの事例が示しているのは、AIエージェントが大企業だけのものではなくなってきたという現実です。ただし「エージェントを入れれば業務が変わる」ではなく、「手順を固めた業務をエージェントに渡せる」という順番が重要です。まず自社のマーケティング業務の中で「毎回同じことをしている作業」を一つ書き出す。そこから手を付けると、半年後の選択肢が変わってきます。


